「口がうまいだけ」ではすぐ売れなくなる

顧客との約束を体を張って守ろうとしたものの実現できず、責任をとって辞めたとしても、優れた営業マンなら転職先で顧客と取引を継続することができる。

「需要家は営業マンが何をいったかよりも、何をしてくれたかを見ていて、それが信頼のベースになる」

と、金川氏はいう。

「うまいことをいって契約がとれても、難しい問題が生じると、さっさと逃げてしまう営業もいる。需要家も好調なときは誰もがチヤホヤしますから、そうでないときに誰がどう動くかをしっかり見ています。何かと口がうまいだけの人間は一時的な関係しかつくれません」

これは営業の話ではないが、金川氏はこんな感動体験をした。3年前、アメリカ南部を巨大ハリケーン、カトリーナが襲った際、避難命令が出ていたのに工場の従業員たちが最後まで残って守ってくれた。金川氏は心動かされ、一人ひとりに手書きの感謝状を贈った。人間関係の基本は日本もアメリカも変わらない。

 

自社のスタッフにこそ信用を勝ち取れ

若いころ、トランク2つ抱えて全世界を営業行脚した金川氏によれば、「営業には車の両輪がある」という。

「1つは、よい需要家と信頼関係を結べるかどうか。そしてもう1つは、同じ関係を自分の会社との間につくれるかどうかです。いざというとき全面的にバックアップしてもらえる。それだけ会社に信用してもらえる力量を持てるかどうか。

口先ばかりの人は会社からも信用されない。体を張って実績を一つひとつ積み上げられる人は会社にも信用され、車の両輪が回る。営業マンは目先の数字に目を奪われがちですが、数字は両輪が回った結果としてついてくるものです」

顧客から、そして、会社から信頼を得るには積み上げが必要で一朝一夕にはできない。しかし、1度でも困難から逃げれば、一瞬で崩れる。

「だから営業は経営の生命線なのです」

金川氏は最近、旧制高校時代に感銘を受けた哲学者カントの次のような言葉を社員たちに繰り返し語るという。

「汝なすべきがゆえに汝なしうる(Du kannst, denn du sollst)」――やるべきだという強い意志と思いがあれば可能になる。営業の王道をいかに歩むか。小手先の奇策に走りがちな営業マンは胸に刻むべきではないだろうか。

(萩原美寛=撮影)