「体を張るとは絶対に逃げないということです。需要家から品質を直してほしいという要望があったら、クレームこそ信頼関係を結ぶチャンスととらえ、会社を説得し、研究所や工場を総動員して直す。初めからどこかで逃げようという気持ちがあったらできません」

もちろん、会社側に働きかけても、応じてくれないこともある。そのときはどうすればいいのか。

「需要家の要望が本当に実現不可能なものであるなら、初めからできない約束はすべきではない。その判断力も営業マンには必要です。一方、要望が的を射ていて、やるべきだと思ったのに実現できず、約束を守れなかったら責任をとって会社を辞める。それくらいの気構えがないと会社は動かせません。ただ、需要家を大事にする会社だったら応じるはずで、それができない会社には将来性はない。いても意味がないでしょう」

 

困っている顧客は助けて絆を強めよ

金川流経営の大きな特徴は徹底してリスクをヘッジするリスクマネジメントにある。それは営業にも表れる。

とかく営業はどんどん買ってくれる「強い需要家」に足を運ぶ。そこで売れば楽に営業ができる。これに対し、金川氏は「今強いことは3年先、5年先の保証にはならない」と異論を唱える。

「特定の需要家に過度に依存すると、状況が一変したとき大きなダメージを受けます。困難でもほかに有望な新しい需要家を見つける。将来、状況が変化したとき、その有望なところが支えになります。鉄則は“易きにつくな、狭き門より入れ”。楽な道ではなく、あえて困難な道を選ぶのが本当に強い営業です」

易きにつかず、難きにあたる営業術の真価が問われるのは、「今困っている需要家」に相対したときだ。シンテック社に根強い固定客がいるのは、金川氏が進んで支援の手を差しのべたからだ。

「今は困っていても、この先立ち直り、伸びていくと思った需要家には私は思い切って経済的援助や技術的支援をしました。本当の信頼関係は需要家が好調なときよりも、苦境に置かれたときにこそつくられていくものです」