米国と中国の合意は本物か?

もちろん、IPCCは政策立案・決定の役割を担っている訳ではない。各国の政策立案・決定者に対し、地球温暖化の科学的評価と対策案を提示することにより、来月のリマIPCC第41回総会で討議を進め、来年2月に予定されているパリCOP21(第21回国連気候変動枠組み条約締結国会議)で実効力のある国際合意実現の必要性を訴えているのだ。

我々がエネルギー問題を考える場合、地球温暖化問題を避けて通ることは出来ない。

弊著『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門』で述べたように、まず考えなければいけないことは、我々がどのような生活を望むのか、どんな社会に住みたいのか、つまりは我が日本はどのような国であって欲しいのか、ということだ。我が国は一次エネルギー資源をほぼ持たないという現実を直視し、その上で望ましいエネルギー政策を考える時、同時に地球温暖化問題への対応も考えなければならない。

どのような生活を選択しても、化石燃料以外の一次エネルギー、すなわち原子力および再生可能エネルギーだけでは、人類が必要とするすべてのエネルギーを賄うことは出来ない。比喩的に言えば、「埋蔵量」が足りないのだ。残念ながらこれは冷徹な事実だ。我々はここから出発しなければならない。

現代の生活を支えるエネルギーとして、電源燃料以外に各種産業の燃料用(重油)、輸送用(ガソリン、軽油)および製鉄用(石炭)などにも必要だが、これらは技術革新により電力で置き換えることが出来ないわけではない。だが、石油化学用原料としては化石燃料がどうしても必要だ。また、発展途上国においては、これから経済成長をして行くために、先進国と同じように非化石燃料にのみ依存することは経済的に出来ない。どうしても化石燃料は必要だ。

このように、先進国でも発展途上国でも化石燃料の使用をゼロにすることはほぼ不可能だ。従って、CCS(CO2回収貯留)の技術革新と効率化達成が喫緊の課題になって来る。

CCSは、工程としては二酸化炭素の(1)分離・回収、(2)輸送、(3)圧入・貯留の三段階に分けられる。技術的手段としては地中貯留と海洋隔離とがあるが、現在は主に地中貯留の研究開発が進められている。地中の帯水層や油田、ガス田に圧入する方法だ。

現時点において、世界的に実用化されているものは石油・ガス開発関連のもののみで、ノルウエー、カナダ、アルジェリア等にしか存在していない。肝心の発電所からのCCSはまだ実例がない。 

我が日本では、長岡で実証研究がなされている他、2020年までの実用化を目指して苫小牧において実証研究が進められている。共に帯水層へのCCSである。このように、CCSの実用化は未だ研究段階にある。

さて、我々に出来ることは何だろうか? 話が大きすぎて、日常性との関連を見つけることは簡単ではない。

おそらく大事なことは、我々が一次エネルギー資源をほぼ持たない国に生存していること、その一方で地球温暖化の問題を抱えていることを十分に意識して、日常生活の中で出来ることを地道に、根気強く実行していく、それしかないのではなかろうか。

この稿を書いている11月中旬、アメリカと中国が地球温暖化対策で協調して行くことで合意した、とのニュースがAPEC会場であった北京から飛び込んで来た。合算すると世界中のCO2排出量の半分ほどを排出している両国が協調して動き出すということは、人類の未来にとって極めて明るいニュースだ。我々も意を強くし、一緒に動き出そうではないか。

岩瀬 昇(いわせ・のぼる)●エネルギーアナリスト、金曜懇話会代表世話人。1948年、埼玉県生まれ。エネルギーアナリスト。浦和高校を経て、東京大学法学部を卒業。71年三井物産入社、一貫してエネルギー関連業務に従事する。その間、香港、台北、2度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクの延べ21年間にわたる海外勤務を経験。2002年より三井石油開発に出向。10年常務執行役員、12年顧問に就任。14年6月に三井石油開発退職後は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」代表世話人として、後進の育成、講演・執筆活動を続けている。近著として『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門』(文春新書)がある。 >>金曜懇話会 https://ja-jp.facebook.com/platform.japan
(岩瀬 昇=文、石橋素幸=撮影)