吉田氏によれば、1980年代と90年代を通して人気を博していた佐高氏や大前研一氏の流れを汲んで2000年代に登場したのが、勝間和代氏である。
「彼らの共通項を一言で表現すると、アンチ会社なのです。納得できないことは上司命令でも拒否してかまわない、仕事が忙しくてもさっさと帰りましょう、とにかく自分の力を磨きましょう、と推奨しています」
勝間本を読むたび吉田氏が思い出す部下がいる。出版社勤務のときだ。
「休日出勤を頼んだら、『吉田さんと編集長の仕切りが悪いのだから、2人が責任を取るべきです。私は4カ月前に予約したコンサートに行きます!』と、皆の前で言われて絶句しました」
豪快な文章につい心を奪われてしまいがちだが、万人向けに書かれた本などありえない。自分の立場をわきまえて読むことが必要だ。
「小笹芳央さんの『モチベーション・マネジメント』(PHP文庫)もやる気を増すために職場のレイアウトを変えよう、と提案していますが、会社員のマネジャーにそんな権限はありませんよ。明らかに中小企業の経営者向けの本です」
その本は、自分に合っているか?
理不尽な人事がまかり通る会社に鬱々とした気持ちを抱いている人は少なくない。「半沢直樹」がヒットしたのも、ストレス解消のためだろう。ただし、会社員でありながら会社を憎み続けるような働き方は現実的ではないのだ。『なぜ、勉強しても出世できないのか?』の著者である佐藤留美氏は、2冊の最新刊を俎上に載せる。
「ちきりん著『未来の働き方を考えよう』(文藝春秋)は読み方によっては危険です。40歳から新しいことを好きに追求しようというのは、スキルが高くて養うべき家族がなくて、お金にも困っていない人の意見です。つまり、大半の人には当てはまらない。子育て中のお父さんが真に受けていきなり会社を辞めたりしたら、一家離散の危機ですよ」
同書がひたすら「自分」に関心を寄せている点にも違和感があるという。
「40代は中間管理職として後輩を育てる世代です。職場でも家庭でも他者に関心がなければならない年なのに、なぜ『自分』なのでしょうか」