福島の災厄にピリオドを打てぬ政府。だが、国の新たなエネルギー戦略案には、重要な柱の一つとして「原子力」が明記されている。なぜか──その謎を解くには電気事業法に加え、とある省令の掘り起こしが必要だ。
旧通産省時代から政府の最深部でエネルギー行政の実権を握り、政治家を操ってきた経産省。

旧通産省時代から政府の最深部でエネルギー行政の実権を握り、政治家を操ってきた経産省。

東京電力福島第一原発事故は、国民の大半に原発の恐ろしさを骨の髄まで思い知らせた。途方もない環境汚染はいまだ治まらず、拡散した放射性物質による内部被曝が静かに進行している。

原発は常に事故の危険を孕む。いったん起きれば被曝者の手当てもできず、収束も容易ではない。そもそも、廃棄物の安全な処分場もなければ、まともな解体一つできない。解体中も被曝者を生み続け、廃炉後も長期にわたって広範囲の土地が密閉される。しかもセシウム、プルトニウム等々の危険な放射性核種は後世に積み残し続けられる。

さらに、原発の存在は国防上の巨大リスクでもある。仮に、同時発射された複数のミサイルが日本列島を取り囲む54基の一つにでも命中すれば、今回のような対応では済まない。国は被害者救済を後に回して防戦に全力を注がざるをえなくなるからだ。

電力会社の“利潤”を算出する特殊な計算方法は、原発の推進と密接に関わっている(写真は勝俣恒久・東京電力会長)。

電力会社の“利潤”を算出する特殊な計算方法は、原発の推進と密接に関わっている(写真は勝俣恒久・東京電力会長)。

にもかかわらず、政府が原子力に見切りをつけてエネルギー政策の舵を切ろうとする気配はない。浜岡原発の停止は「堤防ができるまで2年間」の保留措置にすぎず、「原子力行政を根本的に見直す」という国政トップの発言も「エネルギー政策から原子力をはずす」ことを意味しないからだ。

一方、事業当事者である電力会社にもその気配はない。火力や水力など、原子力以外にも多くの電源を擁し、さらに、巨大市場が予測される再生可能エネルギーに世界が大きく動き始めた現実を承知しながら、いまなお原子力以外の電源稼働を極力抑えて原子炉数とその稼働率の維持・増進に固執している。マスコミを通じて半世紀以上も演出してきた原発の「安全神話」が崩れ去った現在も、政府と原子力業界は相変わらず、原発が「国民の必要エネルギーを支え」、しかも「コストが最も安い」電源だと訴え続けている。

しかし、原発の必要性も低コスト説も“神話”であることに国民が気づき始めている。インターネットの普及で、原発事故に関する稀少な情報が拡散。おかげで国民の認識が情報隠蔽の画策と放射性物質の拡散スピードに追いつき始めたのだ。

ところが、政府と原子力業界はすべてを承知のうえで、いまだその存続に固執する。その理由を探る前に、まずは残された2つの“神話”がどのように崩れたのかを検証する。

(PANA、AP/AFLO=写真)