モバイル事業が予想以上の不振
9月17日、ソニーはモバイル事業が予想以上に不振に陥っていることから、今2014年度には2300億円の赤字を計上すると業績予想を下方修正すると同時に、1958年の株式上場以来初めて、株式の配当金を"無配"にすると発表した。
平井一夫氏は、同社の社長兼CEOに就任した2012年4月当時、その本業であるエレクトロニクス製品分野の反転攻勢が最優先課題のひとつと語っていたと記憶している。
09年の11月に開催されたメディア・投資家の説明会で、同社が「液晶テレビ事業=2010年度黒字化目標」を掲げていたにもかかわらず、その目標が未達成のまま推移していた事実を考慮すれば、これは当然の課題だったと言える。ところが、平井体制になって以降も長くこの経営課題の本線に具体的な光明を見いだせずにいたところに、今度はその課題がモバイル事業にも“飛び火”した形になった。
同社長が口にする両分野の不振の原因はほぼ同じだ。曰く「市場環境の悪化」、「中国、韓国メーカーの予想を超えた低価格戦略への対応の遅れ」などなど。さらにこの不振に苦しむ状況を打開し、収益性を確保するための手段についても、ほぼ同じ見解が示されてきた。すなわち「構造改革」に取り組み人員を削減するという方策だ。とはいえ、このコメントを耳にしたのは、二度や三度のことではない。
理由はどうであれ、経営者が評価されるのは結果であり、業績・財務の数字であることは言うまでもない。17日の記者会見でもこの点に触れる質問がいくつか出された。
その中で、筆者がとくに首をかしげたのが次の2件の質疑応答だった。
ある新聞記者が次のように質した。
その1「どうしてモバイルビジネスの市場環境に対する事前の見通しが実際よりも甘くなかったのか?」
これに対する同社長の答えは
「どういう点が甘い見通しだったかということについて言えば……(中略)競争環境が激化していく中でそれにすばやく対応するだけの体力もしくはオペレーションができていたかについては反省すべき点かと考えている……(後略)」
その2「赤字拡大と無配の責任をどのようにとるつもりか」
「不退転の覚悟で業績を回復させ早い段階で復配をし、ソニー全体を建て直していくのが一番の責任と感じている」
その1は、質問をはぐらかしている。甘い見通しをたてたのはなぜか、その理由を質されているにもかかわらず、甘い見通しを裏切った具体的な市場・環境状況を語っている。その2は、自身の経営責任についての認識が、「責任をどのように感じているのか、進退についてはどうか」と問い質されたときの政治家のそれによく似ているのではないか。