年金をあてにせざるをえない
東日本大震災以降、海外移住の傾向も変わってきた。シニアを含めた広い世代で、「もしもの事態」に備え、「すぐに移れるように海外コンドミニアムを購入しておきたい」という人が増えた。
日本の不動産を買い、家賃収入で海外生活を考える人も増えているが、そこまで裕福ではなく、「定年は近い。でも退職金と合わせても蓄えは足りない」という人はそれ以上に多い。そして「居心地がよく物価が安い国へ」と夢描く人たちもまた多い。
しかし資金面では、預金利息は世界的にゼロ金利が当たり前。昔のように数千万円を銀行に預け、その利息で生活をするのは困難になっている。
もちろん先進国を除けば高金利の国もあるが、リスクは高い。金利の高い銀行ほど危なかったり、預金保護がないことも。資金運用の難しさを考えると、普通の人はやはり年金をあてにせざるをえないのが現実だ。
年金での生活水準は当然ながら国民年金、厚生年金の受給額に左右される。夫婦合算での受給額では、月10万円の人もいれば30万円の人もいることから、収入環境によって国選びも異なってくる。
早期退職した人は、日本で収入を得ながら年金受給年齢まで待つのが普通。ただ、「中高年はバイトもないし、疎外感を感じるだけで精神衛生に悪い」として、「貯金を切り崩しながら物価の安い国で過ごしたほうが……」と考える人は意外と多い。
移住先として人気があるのは、タイ、マレーシアといった東南アジアの国々。生活費目安は月10万円ほどで、一般市民は5万円ほどの月収で暮らしている。もちろん自由に好きな国に移住できるわけではない。アジア並みに物価が安いのは中南米諸国、それ以外では北アフリカのモロッコ。欧州や南太平洋の島々は総じて高い。
もう一つ、移住の最重要課題となるのが「居住用の査証取得」だ。現在、40を超える国々が、退職者や年金受給者を対象にした「リタイアメント査証制度」を実施。長期滞在に必要な手続きが簡素化され、取得しやすいように配慮されている。申請条件は国によってさまざまだ。
アジアの申請条件では、タイが預金または年間年金収入の合算で約240万円以上。永住権付きのフィリピンは約162万円の預金をするだけという手軽さが魅力だ。