食事のとき、何気ないクセや思いこみで相手を不愉快にさせていないだろうか。マナーとは、相手と気持ちよく食事をするための手段であり、おいしく食べ進めるための合理的な手段でもある。一流店の作法を覗いてみよう。

「楽しむ」ことが抜けたら台無し

フレンチの高級店もまた、慣れている人とそうでない人の差がはっきり出てしまう場所である。

「接待で、ホスト側とゲスト側のトップ同士は、こういう場にも慣れているのですが、直接やり取りをする調整役の方が慣れていないというパターンが時々あります」と「アピシウス」の永井利幸さん。

アピシウス 取締役支配人 
永井利幸 

恵比寿「タイユヴァン・ロビュション」、銀座「ロオジエ」など名だたるグランメゾンの責任者を歴任、2009年から支配人を務める。

当日の現場であたふたしないためにも、ワインはどのくらい飲むか、メニューはどうするか、予算はいくらに収めたいか、事前に伝えておけば、店側もその中で割り振りや献立を考え、最適なものを提案してくれる。メンバーにワインや食べ歩きが好きな人がいるならば、ソムリエやスタッフとのやり取りを楽しみたいと思っているかもしれない。すべてをきっちり決め込まず、ある程度の選択肢も残しておけるとベターだ。

具体的なマナーは上記にあるが、欧米人に比べると、日本人は出されたものをすべて使わなければならない、と考える人が多いという。

例えばフィンガーボウル。骨付き肉の料理などでは出されるが、手を使いなさい、ということではなく、使っても構わないということ。気軽なビストロでは直接手で食べる場合もあるが、高級店ではやはり、カトラリーだけできれいに食べきれれば、それにこしたことはない。そこは、場の雰囲気なども見ながら臨機応変に。

すべてに共通するのは、変にかしこまらず、リラックスをして、わからないことは素直に相談すること。付け焼き刃の知識ほど格好の悪いものはない。店のもてなしや、同席者に心をとめれば、自ずと配慮のある姿勢や行動が伴ってくるもの。それが、ゆったりとした大人の男の余裕にもなる。