日米を代表する高収益企業が実践する革新メソッドを紹介。好業績企業はどのような人材研修を行っているのだろうか。研修の現場をリポートする。

7カ月間の全寮制合宿研修で“心”と“技”を叩き込む

初めのうちはなぜ座禅をするかわからなかった<br><strong>和歌山工場化学品PRD 油脂●栗垣 勇さん</strong><br>1967年生まれ。今期テクノ生を代表して寮長を務める。そこでできたネットワークを大事にしたいと語る。
初めのうちはなぜ座禅をするかわからなかった
和歌山工場化学品PRD 油脂●栗垣 勇さん
1967年生まれ。今期テクノ生を代表して寮長を務める。そこでできたネットワークを大事にしたいと語る。

年間100億円のコスト削減を実現する超優等生として知られる花王。まさに効率化の追求を絶対的使命とする生産現場にこそ洗剤・家庭用品の分野で国内トップを走り続ける花王の強さの源泉がある。

「以前は職場の雰囲気を変えたいなと思っても、どうせ一人では押しつぶされてしまうよなと、前に踏み出せなかった。無事に生産が続いていれば、それはそれでいいじゃないかという気持ちが強かったですね。でもここ(テクノスクール)に来てから、職場に戻ったらこれもやりたい、あれもやってみたいという気になっています。たとえ1人でも、失敗しても、何回も挑戦してやるぞ、とね」

こう強い意志を露わにするのは花王グローバルテクノスクールで研修中の栗垣勇さん(41歳)だ。研修とはいえ、どこにでもある研修ではない。研修期間は5月から12月まで、七カ月に及ぶ。しかも花王の和歌山工場内にあるスクール施設内で寝泊まりする全寮制の合宿研修である。受講者は全国の生産現場をはじめアジアの工場から選出された35~40歳のエンジニアリング・オペレーターと呼ぶ第一線の生産技能者である。

スクールの目的は「優れた人格・見識を備えた“心”、幅広い専門知識・技能を持つ“技”、そしてリーダーシップを持った生産現場の中核となるエンジニアリング・オペレーターを育成する」ことにある。それにしても、なぜ長期間にわたり家族と切り離し、かつ現場で最も活躍している中堅人材をあえて外すという犠牲を払ってまで教育するのだろうか。

同社の生産技術部門トップの後藤卓雄代表取締役専務執行役員は企業理念である「花王ウェイ」の追求にあると言い切る。花王ウェイでは花王の使命を「消費者・顧客の立場にたって心をこめた“よきモノづくり”を行い、世界の人々の喜びと満足のある、豊かな生活文化の実現に貢献すること」と定めている。

「よきモノづくりとは、よき人づくりに尽きます。企業環境がめまぐるしく変化する中で生産活動を維持していくには、人づくりの地道な積み重ね以外にありません。その努力を継続する仕組みの一つがテクノスクールです。技術の基本的考え方や物事に対するアプローチの仕方を学ぶことで全体最適の視点を身につけた現場のリーダーに育ちます」

研修効果を具体的数値で示すことはできない。それでも後藤専務が自信を持って言い切るのは約20年に及ぶ実績が背景にある。1989年に開校して以来の卒業生は約800人。すでに生産現場の技能者の半分を占めている。