半導体と軍事産業の関係
CHIPS法には、国家安全保障上の意図が色濃く反映されています。先端半導体はスマホやデータセンターのみならず、軍事・宇宙・AI分野の頭脳も担う戦略物資だからです。
たとえば、最新鋭戦闘機のF-35などに使われるアビオニクス(航空機の電子装備)やステルス性能を支える電子部品、イージス艦などに搭載される高度なレーダーシステム、さらには人工衛星やミサイル防衛システムの制御装置に至るまで、これらの分野では高度な半導体チップが不可欠です。
実際、米商務省がCHIPS法に基づく補助金支給案件として最初に決定した案件のひとつは、BAEシステムズ(英国)の米国工場への3500万ドルの支援であり、その目的はF-35戦闘機を含む国防用途の半導体生産能力を大幅に引き上げることでした。
国防装備に使われる半導体を国内で安定生産できるようにすることも、本政策の重要な柱となっているのです。
中国などの「懸念国」への措置
そのため、CHIPS法の運用条件には、安全保障面においても厳格なルールが定められています。たとえば、補助金を受け取った企業は今後10年間、中国などの「懸念国」において28ナノメートル未満の先端半導体の生産能力を新たに拡張することが禁じられており、違反した場合には助成金の返還などの措置が科されます。
TSMCやサムスン電子のように中国に既存拠点を持つ企業も、こうした規制に抵触しないよう米国政府と調整しながら計画を進めています。TSMCが中国南京工場の生産を16ナノ世代までにとどめているのも、その一例として理解できるでしょう。
この制限条項は、米国が先端技術を地政学的な競合相手には渡さないという強い意志を示すものであり、量子コンピューティングやAIといった軍民両用技術に直結するハイエンド半導体を巡るテクノロジー競争の側面がうかがえます。
加えて、CHIPS法では、補助金の使途を自社株買いや過度な配当など株主還元にあてることを禁じる一方で、労働者支援や地域社会への投資といった取り組みを補助金審査の重要な要素として位置づけています。単なる産業支援策にとどまらず、広義の経済安全保障政策として設計されている点が特徴です。

