台湾依存からの脱却へ

前述のとおり、世界の半導体供給は特に台湾への集中と依存が顕著であり、これが米国にとって大きなリスクとなっていました。CHIPS法はこのリスクを低減すべく、米国内に製造拠点を呼び戻すことでサプライチェーンのリスクヘッジを進める戦略的意味を持ちます。

TSMCのアリゾナへの進出や、サムスン電子のテキサスでの工場増設はその象徴であり、米国政府高官も、こうした投資によって世界最先端の半導体製造拠点が米国にも築かれ、AI時代を支える半導体チップを自国供給できるようになると強調しています。

TSMCと日本企業の合弁会社JASMの熊本工場
TSMCと日本企業の合弁会社JASMの熊本工場(出典=『半導体株&AI株投資大全』)

一方で、TSMCが生産能力の一部を海外(米国・日本など)に移す動きについては、台湾の「シリコンの盾」効果が薄れるとの指摘もあります。

しかし米国側から見れば、万が一にも台湾有事でTSMC台湾工場が被災・停止する事態に備え、代替の生産拠点を確保しておくことは急務です。CHIPS法の補助金によって海外企業であるTSMCやサムスン電子にまで巨額支援を与えているのは、まさにそうしたサプライチェーン断絶リスクへの備えといえるでしょう。

台湾有事に対する防護策の意味合い

加えて、米国政府は日本や欧州など同盟国とも協調し、各国での半導体投資(TSMCの熊本やドイツへの工場誘致など)を相互に支援する枠組みを構築しています。

CHIPS法には他国との連携予算も含まれており、この国際協調によって、台湾一極集中型のサプライチェーンから、多極分散型のサプライチェーンへと移行を図る戦略です。

もっとも、2026年時点でも最先端プロセス半導体の大部分は、依然として台湾内で生産されているのが現実です。前述したように、台湾を代表するファウンドリであるTSMCの経営陣も、「海外展開が進んでも、台湾が依然中枢である」と宣言しています。

完全なる「脱台湾」は現実的ではないものの、少なくとも米国、日本、ドイツの3拠点にリソースを持つことは、TSMCへ投資している投資家にとっては地政学リスクを下げる安心材料となるでしょう。CHIPS法は、このように台湾有事に対する防護策の意味合いも帯びているのです。