「手持ちのカード」を掛け合わせた末に見つけた、輝ける場所
――自分の才能や実力を受け入れられたとしても、じゃあ自分は次に何を頑張ればいいんだろう、というのが分からない人も少なくないと思います。かっぴーさんは転職することを決めた後、どのように次のアクションを考えたのでしょう?
一つのスキルや強みだけでは絶対に負けるから、複数のスキルや強みを掛け合わせようと考えました。それを考え始めたのが、ちょうど転職のタイミングでしたね。
デザイン力だと中の下だけど、とはいえ美大を出た広告クリエイターって実はそんなに多くない。僕がいたのは社員1000人くらいの中規模代理店なんですけど、その中で美大を出ていたのは当時30人くらい。まぁその中で自分の実力は20番目くらいなのですが、数としては意外と少なかったんです。だから、(その経歴は)完全に捨てるには惜しいプチレアカードだと思っていました。
ただ、この一枚だけでは弱い。だから、何かを掛け合わせないといけないとなった時に、それが僕はWebへの知見だったんです。
――なぜWebだったんでしょうか?
僕の見ていた範囲では、大手広告代理店でも、当時Web広告の施策を考える部署は少なく、Webの領域でアートディレクションができるクリエイターが業界全体で少ない時期でした。「Webなんてただのトレンドでしょ」みたいな空気感もうっすらあって。今となっては笑い話ですけどね。
だったら、自分はそっちに飛び込もうと。だって家に帰ったらYouTubeやTwitter(現・X)をずっと見ているし。そしてどうせならWebのことを突き詰めたいと考えて、代理店ではなく、あえてWebをビジネスの主戦場とする会社を選びました。当時のWeb企業は、代理店出身者のスキルや経験値を欲していましたから。
代理店であれば自分は突出した存在ではないけど、違う世界ならもっと輝けるはずだと。実際に移ってみて、「自分の持っているカードの価値が違う」という感覚も得られました。
この転職を通じて僕は、同じカードでも場所によって輝くか、輝かないかが違ってくるんだな、と実感しました。
――たしかに、日常の習慣や趣味が仕事に結びつくケースもありますよね。ただ、自分がどんなカードを持っているか、把握できていない人もたくさんいるように思います。
だから、キャリアのアドバイスを求められると「できること、できないことの棚卸しをしよう」と常々伝えているんです。
ちなみに、この考え方は副業という文脈でも重要になると思っていて。僕の場合は本業に使う前提で「デッキ(対戦時に使うカードの集まり)」を考えていたんですけど、手持ちのカードを知っていたら、副業で月5万円を稼げるくらいのちっちゃなデッキが組めるかもしれないよと。カードを掛け合わせながら、自分という会社組織をチームビルディングしていく感覚ですよね。
――先ほどの転職エピソードにも感じましたが、かっぴーさんはかなり俯瞰的に(独特の視点で)ご自身のことを分析されていますよね。そもそも、そこまで冷静に自分を分析できる人も少ない気がします。
そうですね。今振り返れば不安の裏返しなのかもしれませんが、昔から「自分で自分の攻略本をつくる」くらいの勢いで分析していました。例えば就職活動の時は、企業パンフレットは中の情報ではなく編集方針を見ていました。構成を読んで「人事がどういう人材を欲しくてこの本をつくったのか」を読み解く。そうすると、エントリーシートに何を書けばいいかが見えてくるんです。
ゲームも、クリアまでの道筋がある程度見えていて、主人公のレベルを上げればクリアに近づくようなロールプレイング系は得意。逆に、プレイスタイルの自由度が高いオープンワールド系が苦手で。
今は、その苦手なはずだったオープンワールドのような漫画の世界で仕事をしているので、なんとも不思議ですが(笑)。
手持ちのカードを把握して、それらを掛け合わせ、勝てる場所へ移る。かっぴーさんが会社員時代に実践したキャリア戦略は、実に堅実なものであったように思えます。
しかし、かっぴーさんを漫画家の世界へと誘ったのは、その戦略の外側からやってきた思わぬ転機でした。
「漫画家という職業はおそらく、考えて、考えて、分析した末になる仕事ではないですよね」。そう水を向けると、かっぴーさんはこう答えました。
「本当に。だから、背中を押されて落ちたっていう」
後編では、戦略の外側で始まった漫画家としてのキャリアと、そこで手にした確固たる自信について掘り下げます。
取材・編集:はてな編集部 撮影:是枝右恭 制作:マイナビ転職
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