自分よりすごい人と出会うたびに「下方修正」を繰り返してきた
――とはいえ、そんな広告のデザイナーやアートディレクターの世界にも、自分より実力のある人はたくさんいるわけじゃないですか。
そうですね。だから、若い頃は自分の進むべき方向やポジションをどんどん「下方修正」してきたイメージなんです。
美大にいた頃も、広告代理店で働いていた頃も、周りを見渡して「自分はデザイン力だと中の下だな」「逆にアイデア力では勝てるかな?」なんて思いながら、軌道修正していく。
――いけると思ったら、もっとすごい人がいる、と。でも、自分の実力を受け入れて下方修正できるのも、ある種の才能というか、凄さだと個人的には思うのですが。
でも、それを繰り返す中で、自分の手持ちのカードがどんどん減っていくような感覚にも陥って。結局あれも使えなかったし、これも使えなかったって。
リーダーシップはあるように思えて、大学時代にフリーマガジンを立ち上げて「代表」的な振る舞いをしたこともあるのですが、代理店に入ったら「そういうのに一番向いてない」と気づかされたこともあります(笑)。
――優れた先輩や同僚がいると、比較して「自分は向いていないかも」と思ってしまうこともありますよね。
ただ振り返ると、そのせいでこじらせていたというか、「必要以上に下だと思っていた」節もあります。今、広告業界の人たちと話すと、当時分からなかった話が分かったり、当時聞いてもらえなかったことを聞いてもらえたりして。広告業界でのキャリアは(業界を離れた)10年ほど前に途切れているにもかかわらず、です。
その時、「俺はこれぐらいの人間だ」って自分で限界を決めつけていたのかもしれないと感じたんですよね。当時からもっと自由に話したり、考えてがむしゃらに取り組んでいたりしていたら、また違った道を進んでいたのかもしれない。特別に自分の資質が劣っていたのではなく、経験を積めば同じレベルに到達できる可能性が十分あったのかもしれない、と。だから、下方修正グセも、あまり良くないとは思います。
――たしかに、すごい人は周りにいるけれど、それでも自分はできると、自分を信じてやり切ることも、ある種大切なのかもしれませんね。
その「信じてやり切る」というのが、自分にとってハードルが高かったんですよね。目標までの道筋は常にグラデーションで、まだ自分はアクセルを踏む段階にないと。
だからなのか、階段を登って、さぁ飛んでくださいっていう瞬間にも、自分が先陣を切るのが怖かった。バンジージャンプの飛び台でずっとモタモタしてる人みたいな。
代理店時代も、何かあった時、いちいち先輩の顔色を伺ったり、いつまで経っても「後輩ムーブ」をしたり。下っ端根性が、まるで呪いのように染み付いてしまっていました。
――でも、「決められたチェックポイントをたどっていけば、何者かになれる」という感覚は、多くの人が持っているものだと思います。
そうかもしれませんね。美大を出て、代理店に入りさえすれば、何者かになれると思っていたんですけど、全然そんなことはなくて。実際は、どんな環境にいても自分自身で道を模索しなければいけなかった。
うだつの上がらない時期を経て、自分の可能性を広げるために別の環境も見てみたいと思ったので、思い切って転職を決断しました。

