車社会の宇都宮が挑んだ大きな決断
路線バスは輸送力が小さく、鉄道と比べても定時性・速達性で劣る。行政が路線バスで十分との認識は大きく見誤ることになる。行政にとって嬉しい誤算ではあるが、いったん道路を整備しておいて、後から鉄道のような公共交通を整備することは端的に言えば二度手間となる。
それ以上に、住民たちの間に根付いたマイカー通勤という生活スタイルを大きく変えて電車通勤に転換するという難題でもある。それでも行政は決断を下して、最終的に路面電車の建設を選択した。
筆者は2005年に『日本全国路面電車の旅』(平凡社新書)を上梓しているが、その取材では全国各地を走る路面電車の事業者や自治体関係者、沿線に居住して路面電車の活性化を模索するNPOや商店街の関係者に話を聞いてきた。それだけに、路面電車に対する思いは強い。
取材時に関係者の大半が口にする路面電車の有用性についても認識していた。だが、そうした路面電車の有用性は日常的に利用しているから感じられるものであり、これまで路面電車と無縁の生活を送ってきた人たちが、そのメリットを感じることができるのか? と問われれば疑問が残る。
反対の声を抱えながら始まった巨大事業
路面電車は「レトロ」「風情がある」といった言葉で語られることが多く、それゆえに「路面電車は昭和の遺物」というイメージを抱かれていた。実際に「なぜあえてLRTを導入しなければいけないのか」「赤字になった場合、どう対応するのか」「時代に逆行している」などの声もあがっていた。
筆者はライトライン着工以前から宇都宮市の関係部署を取材してきたが、市の担当者はそうした反対の声をかなり意識している様子が窺えた。
その後も筆者はたびたび宇都宮を訪問した。そして線路の建設が完了して習熟運転が始まると開業前の沿線の様子を探るために、自転車で全線の沿道・側道を走破するという酔狂なことにもチャレンジした。もちろん、開業後も定期的に沿線に足を運び、その変化をつぶさに取材・観察を続けている。
それだけ宇都宮に新たな路面電車が誕生することに期待していた一人ではある。だからと言って、盲信的に路面電車を賛成するわけにはいかない。
無駄な公共工事と批判されることがないようにきちんと需要を調査し、利用者数を増やすような活性化の取り組みをし、沿線に開発効果をもたらさなければならないと考えている。ライトラインが誰の目から見ても成功と思えるような事例にならなければ、“次の宇都宮”が出てこなくなるからだ。

