実はJAL破綻の前に私は何度も会長の就任要請を受けていたのですが、お断りしていました。年も年だし、航空業界は全く未知の世界なので、私の任ではないだろうと考えたのです。私の家族も友人も皆反対でした。

ただ、JALを再生させることは、3つの大義があると考えました。

まず、日本経済のためです。JALがこのまま倒産すれば日本経済に非常に大きなダメージを与えます。日本を象徴する企業で、売上高も2兆円ほどあり、従業員も5万人近くいたわけです。その会社が2次破綻してしまうことは、低迷している日本経済をさらに悪くしてしまうのではないかと考えました。

次は、残った社員のためです。更生計画が策定され従業員約1万6000人が削減されることになりましたが、それでも3万数千人の社員が残るわけですから、その雇用を守ることは、社会的な意義があるのではないかということです。

最後は、利用者のためです。日本にJALと全日本空輸(ANA)という2つの大きな航空会社が存在することで、健全な競争環境が生まれます。それが1社独占になると、運賃は高くなりサービスも低下してしまう。1社化によって生じる弊害を考え、JALを再生させなければならないと強く感じました。

この3つの大義に気持ちは突き動かされ、私はJAL会長を引き受けることにしました。ただし、毎日出勤できるわけでもないので無給を条件といたしました。就任直後は「JALは2次破綻するだろう」とか「稲盛は晩節を汚すことになる」など、さんざん言われましたが、JAL再建の失敗は、私が創業した京セラやKDDIで働く人の名誉にも関わってくる。

「京セラやKDDIはたまたま成功したかもしれないが、JALはあんなざまではないか」と言われたのでは、京セラ、そしてKDDIを一緒に築いてきた社員にも申し訳ないとの気持ちが強くありました。