必要なのは脚本家独自の世界観

半年間、月曜から金曜まで展開する朝ドラには、視聴者をその世界観に引き込んで魅了する「作家性」が必要だ。

2012~13年に宮藤官九郎が「あまちゃん」で個性強めのキャラクターたちをわちゃわちゃさせてお茶の間を笑わせ、朝ドラ人気が復活したように、クドカンワールドと呼ばれるような脚本家独自の世界観が、不可欠なのだ。

「ばけばけ」では日常的なコントが得意なふじきみつ彦が初の朝ドラながら、国際結婚した夫婦の家庭生活に笑いと涙がある様子をユーモアたっぷりに描き出した。

「ブギウギ」の足立紳、「虎に翼」の吉田恵里香なども作家性を打ち出した成功例と言えるだろう。

はたして「風、薫る」の吉澤智子にその実力はあるのか。

吉澤は2023年のドラマ「幸運なひと」(NHK)で、夫をがんで亡くした体験を基にオリジナルドラマを書き、第61回ギャラクシー賞(2023年度)において、テレビ部門の奨励賞を受賞している。夫が死去する直前に息子も出産し、これまで育ててきたという。

そんな経験がシングルマザーであるりんの描き方に反映されていくとしたら、今後、より真に迫ったドラマになっていくかもしれない。

りんが幼い娘のお迎えに遅れたワケ

たとえば4月10日放送の第10話。

りんが3歳の娘を直美に強引に預かってもらい、職探しに出掛けたものの見つからず、呆然としてその場で出会った紳士と話し込んで“お迎え”が遅くなるという展開が物議をかもした。

これも、一見、身勝手な母親のようだが、娘を養うために「なんとしても仕事を見つけなければ」と極度に追い詰められているシングルマザーゆえのミス、“やらかし”と思えば、理解できた。

第1話から出てきた「女の人生すごろく」をモチーフに、嫁に行くしか選択肢がなかったヒロインが看護婦として自立する道に進んでいく。

「桜井女学校の看護婦生徒とアグネス・ヴェッチ」の写真、前列右から2番目が大関和
「桜井女学校の看護婦生徒とアグネス・ヴェッチ」の写真、前列右から2番目が大関和(写真=佐波亘『植村正久と其の時代 第5巻』(1938年9月28日発行)より/PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons

そんな全体の構成はしっかりしていて、見上愛、上坂樹里の演技力も歴代ヒロインに比べて遜色ない。

今後、舞台が看護学校に移れば、生田絵梨花ら、新しいキャストも登場し、学園ものとしての楽しみも出てくる。

継続視聴から脱落するにはまだ早いと思うが、リアルな女性たちの生きざまをじっくりと堪能したいので、できれば「今後、研ナオコの登場は控えめにね」と願っている。

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