東日本大震災を予測していた人は皆無に近い。まさしく“一寸先は闇”だが、今回あえて専門家に日本経済の5年後(2011年当時)を予測してもらった。

5年後を予測するうえで、マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏の基本的な考えは次のようなものだ。

「『ビジネスの成功、失敗の8割方は理屈で説明がつかないことで決まっている』といわれるが、私もその通りだと思っている。そしてその理屈で説明できないこととは何かといえば、例えば経営者としての『嗅覚』や『野性の勘』といったようなことがあげられる」(広木氏)

こうした観点に立てば、優れた経営理念の下で経営者が強いリーダーシップを発揮している企業は、すでに日本経済のエース的存在であるし、5年後もその地位は不動である可能性が高いと広木氏は摘する。

「永守重信氏が率いる日本電産や、大震災後も孫正義氏が存在感を見せつけたソフトバンクはその典型例といえるでしょう」(広木氏)

ワンマン経営者が引っ張る企業は「後継者育成」という大きな課題を抱えていることも事実だ。しかしながら、今後5年程度というスパンであれば、さほど意識する必要はないとも考えられる。

一方、東日本大震災のような未曾有の大惨事は日本経済に大がかりな構造変化をもたらしうる。周知の通り、大震災直後は東北地方の工場が被災したことでサプライチェーン(部品供給網)が寸断され、グローバルな規模で生産活動が滞った。その教訓を踏まえて部品工場の海外移転が進み、国内の“空洞化現象”がさらに進むと懸念する声もある。だが、もっとポジティブな変化として捉えるべきだと広木氏は訴える。

「これまでの外需企業は、単に円高のダメージ軽減のために海外生産へのシフトを進めたにすぎない。つまり、グローバル化戦略が甘かったわけで、今後は原材料や部品の調達まで見据えた包括的な展開を進めるだろう。したがって、日本企業の本格的なグローバル展開の第一歩だと捉えるべき。ヘッド・クオーター(本社機能)が国内にとどまっていれば、海外のどこで稼ごうとも利益は日本に還流する。この変化に伴って新たな雇用も生まれるはずで、むやみに悲観する必要はない」(広木氏)