Q株式投資の世界では、100円値上がりするとすぐに売ってしまい、その後の値上がり益をふいにしてしまうことがよくある。逆に100円損したときは、「もう少し待てば株価が上昇に転じるだろう」と考えて持ち続け、結局さらに下がって大損をすることがある。どうしてそうなるのか。

行動経済学の創始者で経済学者のカーネマンとトヴェルスキーの2人は人を集めて、株価が100円値上がりしたときの喜びの大きさを「1」とした場合、200円値上がりしたときにその喜びの大きさはどうなるか、反対に100円損したときに悲しみの大きさはどうなるかを質問し、相対的な損益に応じた喜びや悲しみという価値の変化の度合いを測定した。その結果が図の「価値関数」と呼ばれるグラフなのだ。

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価値関数

ここからまずわかるのは、人々の意思決定のもとになる価値は、特定の状態からの変化、つまりリファレンス・ポイント(参照点)から離れることで発生するメリット(効用・利益)やデメリット(損失)に大きく依存すること。また、利益が発生しているプラスの領域と、損失が発生しているマイナスの領域とでは、価値関数の傾きが異なることがわかる。そして、その傾きの緩急の違いから、100円儲かったときに感じる喜びの大きさと、100円損したときの悲しみの大きさを比較すると、悲しみのほうが大きいことがわかる。

そうすると、儲かっているときと、損失が出ているときの人間がとる行動に違いが出てくることになる。そのような現象を行動経済学では「鏡映効果」と呼び、利益が出ている局面であると、人はいま発生している利益で満足してしまう傾向が強まる。そして、それ以上のリスクをとりたくないと考え、リスク回避的な行動をとるようになる。そのことを図を使って説明してみよう。

5000円で買った株式Aが100円儲かった状態である点Aから見ると、その儲かった100円を損してリファレンス・ポイントに戻ってしまうことで生じる価値の減少度合いは、点AからA’に移動してさらに100円儲かるときの価値の増加度合いよりも大きい。だから、「さらに利益を追い求めなくても、いま発生している利益でもう十分だ」と判断しがちになってしまう。

一方、損失が出ているときにはリスク受容的な行動が強まることになる。リファレンス・ポイントから点Bへシフトして株価5000円から100円損する場合と、点BからB’へシフトしてさらに100円損する場合を比べると、後者のほうが価値の下落の度合いは小さい。また、点Bからリファレンスへ逆にシフトし、損をしていた100円を取り戻すことで、価値は大幅な上昇を示す。だから、多くの人は株式投資で損失が生じると、まるで金縛りにあったかのように身動きがとれなくなり、ずるずると株を持ち続け、さらに大きなリスクを抱え込むことになるのだ。

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