自分を磨くには自己の鏡となる「強烈な他者」が必要
「いま世界で起きているのは、国際的金融危機ではなく、国際的金融腐敗です」
紫煙をくゆらしながら、ゆっくりとした口調で広瀬隆氏は語り始めた。世界を襲った金融危機は、サブプライム・ローンからリーマン・ショックという、一連の流れによるものと見られているが、その深層はもっと根深く、米国経済界の腐敗によるものだというのだ。
その根源は「投機マネー」だという。為替、穀物、原油、金。日々、これらの利益率の高さを投機屋とヘッジファンドたちが張り合っているが、そのルールづくり、システムの裏側、つまりホワイトハウスと投機業界の“蜜月関係”を見れば、腐敗構造が詳らかになるというのだ。
本書では、戦犯と名指しされるグリーンスパン前FRB議長や財務長官を歴任したロバート・ルービン、ローレンス・サマーズなどの経歴や所業について、ニューヨーク・タイムズ紙のひとコマ漫画や図表を交えながら克明に描いている。例えば、ルービンとサマーズが《1999年に金融サービス近代化法を制定して、銀行と証券会社の兼業禁止を撤廃させて、商業銀行が投資家に証券を販売できるように改悪した》ことにより、《スーパーバブルの資金提供システムにとって最大のエンジンとなりました》と、規制緩和による“暴走”の端緒を示し、その当時の人間関係を懇切丁寧にわかりやすく書き進めている。
「被害を受けるのは結局、我々庶民。大崩壊の本質について、日本のみならず世界中の誰にでもわかってほしいと思い、初めて怒りを抑えて書きました」
少し照れ笑いを浮かべながら、広瀬氏は言う。ひと握りの人たちがルールを捻じ曲げて富を貪り、そして破綻。揚げ句の果ては公的資金注入で救済――つまり、税金を投入して“国有化”したと指摘し、《アメリカが誇ってきた資本主義の歴史は、西暦2008年をもって幕を閉じた》と言う。米国民が代償を支払い、ひいては日本、全世界にツケが回ってくる。これこそが広瀬氏の怒りの根っこであり、「世界中の誰にでもわかってほしい」理由だ。だからこそ、抑えつつも行間から滲み出る怒りが、読む者を圧倒していく。さらに、こうも指摘する。
「日本のマスコミは大事なことを何も伝えていない。その点、米紙のひとコマ漫画の鋭い感性は、私の疑問に答えてくれる。米国の傲慢さには嫌気がさすが、それを鋭く指摘し、市民に訴えるのも米国のメディアだったり、一ジャーナリストだったりするのです」