親にできるのはこのような社会の現実を子供に教え、タコツボにはまりこんだように凝り固まった子供の考え方を柔らかく解きほぐしてやることだ。その際にはぜひ父親に頑張ってほしい。これまでの就業経験と会社の現実を知る先輩として、きっと役に立つ助言ができるだろう。それが何よりの励ましになる。逆にやってはいけないのは、「そんな体たらくでどうする」とマイナス思考を助長するような言葉をかけること。のんびりしているようで、1番悩んでいるのは当の本人なのだから。

そしてもう1つ。就活がネット経由のバーチャルなやりとりに移行しているのは世の趨勢かもしれないが、「生身の企業人に会う」ことを勧めてみてほしい。サークルのOBを訪ねてもいいし、親が誰かを紹介してもいい。もちろんそれが直接就職に結びつくとは限らないが、パソコンの前でじっとしているだけではわからなかった、働くことのリアリティを感じ取ることができるはずだ。

ボランティアなどの社会活動に子供を参加させるのもいい。普段会う友人とは異なる属性の人たちに囲まれれば、自然と社会人らしい立ち居振る舞いや言葉づかいが身につくからだ。私は銀行員時代に採用に関わったが、社会活動を経験した学生は他者との接し方がうまく、面接でも好印象であったと記憶している。

仕事は人と人とが出会い、一緒に目標を成し遂げることで成り立つもの。就活もコピペの履歴書を送ることだけに専念するのではなく、生身の人や現実の世界に向き合いながら取り組んでほしいと思う。

作家 江上 剛
1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行、2003年に退社。02年から作家として活躍。近著に『帝都を復興せよ』がある。
(構成=石田純子)
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