獺祭が世界で称賛されるワケ
しかし、旭酒造は単なる効率化で終わりませんでした。
温度制御や発酵管理を自動化しても、最終判断は必ず人間が下すのです。
「センサーが示す数字だけでなく、香りや米の手触り、発酵の音を聴く。五感を使った確認を怠らない」
これこそが“人間中心デザイン”の真髄です。
桜井氏は言います。「機械が出した数字が正しくても、飲む人が感動しなければ意味がない。『それは人を感動させられるのか?』をいつも自分たちに問いかけています」。
データを駆使しながらも、人間の感覚・哲学・物語を大切にする姿勢は、AI時代が求める“自然知能”の実例と言えます。
効率や正確さだけを追えば、どんな企業も似た味になります。
しかし獺祭は、杜氏の経験を数値に翻訳しながら、最後の一滴に宿る「意味」や「余韻」を人間が決めるのです。
獺祭はフランスやアメリカ、アジア各国でプレミアム日本酒として認知され、世界のトップシェフやワインソムリエからも称賛されるブランドとなりました。
獺祭の歩みは、データドリブン経営と人間中心デザインの“共演”が、いかに強力な感動を生むかを教えてくれます。
AIが膨大なデータを処理できる時代でも、最終的に人の心を動かすのは、数字ではなく「人間が意味を与えた一滴」なのです。
AIと競争するな「共演せよ」
「AIが憧れる7つの自然知能」の中核――意識力、意味を見いだす力、そして感動力。獺祭は、それを日本酒づくりという伝統の中で体現し続けているのです。
AIとの競争を恐れるよりも、自らの内に眠る自然知能を呼び覚まし、共演の舞台に立つ。その視点が、不確実な未来を生き抜く最大のヒントになるはずです。


