自然知能がAI時代に必要とされる理由

AIは圧倒的なスピードで「最適解」を導きます。

しかし「最適解」だけで人は納得するのでしょうか。

例えば、就職活動でAIがエントリーシートを自動選別したとしても、「この学生と一緒に働きたい」と感じさせるのは数値には表れにくい要素です。

また、営業の場で顧客が心を動かされるのは、完璧なデータ分析よりも「この人は自分のことを本気で考えている」という実感です。

そこに必要なのが自然知能です。

人の気持ちを察し、状況の空気を読み、未来に向けて希望を描く力。

これらはAIが不得手とする領域であり、人間ならではの優位性です。

AIは脅威ではなく可能性を広げる存在

人工知能と自然知能を対立的に捉えるのではなく、「共演」として捉えることが重要なのです。

AIはデータ処理や分析の伴奏を担い、人間は自然知能を活かして心を動かす演奏をする。

この共演関係が生まれるとき、AIは「脅威」ではなく「可能性」を広げる存在になるのです。

実際、企業の中でも「データドリブン経営」と「人間中心デザイン」を組み合わせる動きが出てきています。

勘と経営を徹底してデータ化する

山口県岩国市。周囲を山々に囲まれた小さな蔵から、世界中の愛飲家をうならせる純米大吟醸「獺祭」が生まれました。

株式会社獺祭(旧旭酒造)は長年、地元に根付く家族経営の蔵元だったのですが、1990年代後半、売り上げが低迷し、廃業寸前の危機に直面しました。

このとき三代目蔵元・桜井博志氏(現会長)は決断したのです。

「誰もやらない酒造りをしよう」

そのためにまず行ったのが、酒造りの“勘と経験”に頼る部分をデータで見える化することだったのです。

獺祭は酒米”山田錦”の独自検査を開始
画像=プレスリリースより

酒造りは本来、杜氏とうじの感覚に依存する職人技です。

“獺祭の山田錦を日本一見ている男”榎本崇芳氏
画像=プレスリリースより

気温・湿度・米の吸水率――細かい条件を季節や天候で読み取り、微調整を重ねる。

その一つ一つを、旭酒造はセンサーで計測し、発酵タンクの温度や麹菌の動きをリアルタイムに記録。人間の“肌感覚”を数値化したのです。

徹底したデータ分析は、従来なら“門外不出の秘伝”とされた領域にまで踏み込みました。その結果、杜氏が長年培ってきた「職人の勘」を若手社員でも再現できるようになったのです。

酒質は安定し、世界のどの国に出荷しても「獺祭の味」がぶれないのです。

オーストリアと旭酒造のコラボレーション日本酒「獺祭 未来を作曲」
画像=プレスリリースより