「もう変なことは書かないでね」
ただし、「財産は3000万円だけ残しておく」。体が動かなくなった場合、「女房や子供たちの世話にはならない」と決めていたから。それなりの有料老人ホームは月50万円かかる。年金や保険で月30万円入るため、月に20万円あれば入れる計算だ。年間ならば240万円。10年なら2400万円。少し余裕を見て3000万円と弾いていた。
「『おい、鈴木君、若いねえ』と日野原先生に言われる」。人間ドックはいつも聖路加国際病院を利用していた。日野原重明理事長(当時)が診てくれ、最後に「人間は120歳まで生きられる。だけど鈴木君、君はお腹をへこまさないと120歳は無理だ。じゃあお元気で」と去っていくそうだ。お腹がへっこまないのは「食べるから」。訪問先では食事を出される上、「女房が作るケーキも、食わなければならんだろう」。
「僕は自分の体にメスを入れるのを禁じている。肉体を傷つけることを禁じているんだ」。胃瘻をはじめ、延命処置を拒否していると、打ち明けた。
「夢はPPK(ピンピンコロリ)だ」とも。PPKは元気に長生きし、病まずにコロリと死のう、という意味。「後期高齢者の保険料はいくらでも払うから、自分はもうPPK。それだけだよ」。この発言に対し、「本人はPPKでいいでしょうが、会社はどうなるのですか」と筆者は水を向けた。現実にこの時点で、後継社長すら明確になってはいなかった。
だが、鈴木修は「いやいや、そんなのは何とかなるよ。ケェ、セラ、セラだ」と笑う。すると「いま死なれたら困ります」という悲痛な声がスズキ関係者から上がった。鈴木修は、これに応えて一言。
「そのときには、戻ってくるわ」
ユーモアたっぷりだったが、お開きとなったとき筆者は言われた。「もう変なことは書かないでね、プレジデントに」と。笑いながらだったが、その眼は笑ってはいなかった。

