胃袋からの属国化

アメリカで農業が盛んなウィスコンシン州のウィスコンシン大学のある教授は、農家の子弟の多く聴講する講義において、次のような発言を行ったという(*2)

「君たちはアメリカの威信を担っている。アメリカの農産物は政治上の武器だ。だから安くて品質のよいものをたくさんつくりなさい。それが世界をコントロールする道具になる。たとえば東の海の上に浮かんだ小さな国はよく動く。でも、勝手に動かれては不都合だから、その行き先をフィード(引用者注:家畜の飼料のこと)で引っ張れ」

このアメリカの戦略は戦後一貫して実行されてきた。日本は、アメリカによる「胃袋からの属国化」のレールにまんまと乗せられてきたのである。

冒頭で触れた減反政策も、「胃袋からの属国化」によりコメの消費量を減らされ、減反せざるを得ない状況に否応なく追い込まれた、というのが実態だ。

「これは一過性のものではない」

コメの消費量が減り続けると、田んぼも生産農家も減り続け、やがてレッドゾーンを超えて「コメがない」状況になる。そうしてついに起こったのが「令和のコメ騒動」ということだ。

高嶋光雪『米と小麦の戦後史――日本の食はなぜ変わったのか』(ちくま学芸文庫)
高嶋光雪『米と小麦の戦後史――日本の食はなぜ変わったのか』(ちくま学芸文庫)

そしてこれは一過性のものではない。

アメリカの輸入圧力も強まる中、事態はむしろ悪化するかもしれない。戦後80年の今年、アメリカによる「胃袋からの属国化」の結果が顕在化したのは、象徴的な出来事に思えてならない。

以上述べてきた「胃袋からの属国化」が具体的にどのように進められたのかを知りたい方には、『米と小麦の戦後史』(高嶋光雪著)の一読をおすすめする。今私たちが置かれている危機的な食料・農業事情がどうして出来上がったのかを確認することで、日本の食料・農業問題解決の糸口を見出したい。

■引用文献
*1 小野信一「水田稲作と土壌肥料学(2)」『農業と環境』No. 106(2025年3月25日アクセス)
*2 大江正章『農業という仕事――食と環境を守る』岩波ジュニア新書、2001年