「とにかく、銀座で高い賃料という固定費がかかっている以上、リターンが大きくなるビジネスモデルにしなきゃいけないんだ。都心に進出するってことは、そういう覚悟が必要なんだ」

「すみません、ひとつ質問していいですか?」

「なんだよ」

「単価が低いクッキーでも、いちおう、うちの看板商品なんです。これを捨てて、高い商品にシフトしたら、今のお客さんに、逃げられちゃう気がするんですが」

「いきなり店のビジネスモデルを変えろなんて、言ってないだろ。まずは、今までどおり、クッキーの単品売りをしながら、詰め合わせのギフト品の取り扱いから始めてみろよ。取引先回りの営業マンが買っていく可能性が、高いだろ」

「それは、いいアイデアですね!」

「さらに、並行してクッキーを利用した単価の高い商品を開発していけばいい。おまえ、お菓子職人なら、なにか、いいアイデアはないのか?」

「あっ、この間、嫁さんの誕生日に、クッキーの間にスポンジとチーズを挟んだバースデイケーキを作ったんです。あれだったら、3000円以上の単価をつけて販売できるような気がしますよ」

「クッキーで作ったケーキか……そういうアイデアは、忘れないうちにメモしたほうがいいぞ」

「メモを取れって……手が縛られているから、書けないですよ」

「なんか言ったか?」

「いえ、なんでもありません!」

飯島は、余計なことを言ってしまったと思い、すぐに話を変えた。

「もうひとつ、質問してもいいですか? 単価の高い商品に絞るのはわかったんですが、その商品が売れないと、商品点数を絞っている分、リスクが高くなっちゃいますよね」

「そりゃ、そうだ。まぁ、売れそうもなければ、値下げすりゃあいいんだよ」

「えっ、値下げですか! そんなことをしたら、貢献利益は減っちゃうじゃないですか!」

「商品の価格を下げても、それ以上に販売数が増えるならば、結果的に、利益額を増やすことができるだろ? こういう価格の変動に対する販売数の変化率を、『価格弾力性』って言うんだよ」