人気企業に入れる学生は4%以下という現実は変わらない

現状をシビアに分析するカリスマ就活案内人、海老原 嗣生さん。

大学が秋入学に移行した場合、不安になるのが就職だ。優秀な留学生が入ってきたら、ただでさえ厳しい就職戦線がさらに激化することも考えられる。就職への影響を不安に感じる親は多い。実際はどうなるのだろう。

雇用問題のスペシャリストである海老原嗣生さんに尋ねると、「秋入学によって、就職が厳しくなることはないでしょう」との答え。

「そもそも秋入学による留学生の招致は、少子化により生き残りが危惧される下位大学の救済策になると僕は思っています。制度を変えたからといって、優秀な留学生が大挙して来ることはありえない。日本の大学で世界に通用する可能性があるのは東大、京大ぐらいしかないですし、日本の産業自体も総じて下降傾向にあり、魅力が薄れている。優秀な人材であれば、わざわざ日本を選ばないでしょう」

一方、雇用側から見ても、一時期、新卒採用の中で留学生などの外国人枠を拡大する動きが目立ったものの、その勢いは衰え始めているという。

「企業が想定していたような人材が集まらなかったことも一因ですが、外国人を配属する部署がないという問題も大きい。日本語がつたない外国人に営業を任せてもうまくいかないでしょうし、経理の仕事も予算組みの内部調整など交渉ごとが多い。総務や人事も同様です。となると、一部の開発部門を除き、海外事業部の母国担当の部署に配属するしかないわけですが、必要な人数は知れている」

さらにいえば、日本企業の社風は外国人には理解されにくいという側面もある。そうしたことから、たとえ留学生が増えても、就職戦線が激化するとは考えにくい。とはいえ、影響が皆無というわけではないらしい。

「新卒一括採用をしてきた大手企業が、春入社組と秋入社組に分けて採用をすることは考えられます。ただし、会社としては新年度に人員計画を立てられないのは不安ですから、主流は今まで通り、春入社になるでしょう」

もしそうなれば、従来は原則一度しかなかったチャンスが2回に増えることになる。朗報といえそうだが、実際はさにあらず。それが引き金となって就職率が低下する可能性があると海老原さんは指摘する。

「新卒の就職については大手信仰がいまだ根強い。まずは人気企業から受け始めて、徐々に目標を落としていくというパターンが一般的です。つまり、大学4年のゴールデンウイーク前にまず大手の人気企業の内定が出て、決まらなかった学生は4月下旬ぐらいからの、大手のグループ企業を受ける。それでもダメなら有名ではないけれど実績のある上場企業……と受け続けて、その結果、夏休みになってもまだ決まっていなければ、いよいよ中堅・中小企業に移行する。例年、4年生の秋の段階で4割近い就職未決定者が出ていますが、うち3割は翌春までに就職先を決めることができているんです」

それが、秋にもう一度、人気企業の募集があるとなると、当然、再チャレンジの気持ちが起こる。しかし、現実的には春入社よりも狭き門。再び、夢破れて、中小企業に目を向ける頃にはもう冬が間近に迫っている、というわけだ。

「新卒採用が2回になると、最悪の場合、相当数の学生が就職先未決定のまま卒業することも考えられますね」

2000~10年までの平均値では、新卒約55万人のうち人気100社への就職者数は約1万8千人。割合にすれば4%にも満たない。秋入学とともに、この現実も直視する必要がありそうだ。

(三隅洸旬=撮影)
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