新興国市場へ進出するには、常にリスクがつきまとう。しかし、多くの企業で信じられている誤った常識が、さらなる損失を生んでいるケースも多いのだ。

新興市場は巨大な成長の可能性を示しているが、残念なことに多くの欧米企業が戦略的に不利なかたちで新興市場に参入する。新興市場に関する間違った考えに基づいて事業を展開するため、消費者や企業顧客のニーズを概して満たせない製品やサービスを提供し、大きな機会をつかみそこなっている。

その機会がどれほど大きいのかを、技術・通信・メディア部門で考えてみよう。

オリバー・ワイマンが行った調査によると、成熟市場に本社を置く企業の時価総額の伸び率は15%だったのに対し、新興市場諸国に本社を置く企業は、過去5年間に年率38%のペースで時価を増大させた。急成長企業トップ10のうち7社は、新興市場に本社を置いている企業、もしくは新興市場に積極的に投資している企業だった。本稿では、新興市場に関して広く流布している5つの勘違い──誤った通説を分析する。この分析は、われわれのコンサルティング活動と途上国市場の2万人以上の消費者や企業幹部に対する調査に基づいている。特に、技術・通信・メディア部門に焦点を当てて論じるが、この教訓は新興市場への進出を検討するどの企業にもあてはまる。

勘違い(1)新興市場はテクノロジーの後進地帯である

企業はおもに、基本機能だけを備えた低価格製品で新興市場に乗り込もうとしてきた。だが、調査によると、途上国の消費者や企業は、テクノロジー製品・サービスを他の商品よりはるかに優先している。たとえば電気通信に対する消費者支出は、ほとんどの新興市場で10%から15%の複合年間成長率を示しているが、先進国市場の成長率は5%足らずである。携帯電話はまたたく間に世界で最も広く使用される電子機器になり、2007年末の使用台数は30億台を超えた。

01年のアメリカのネット利用者は、人口1000人当たり500人で、浸透率は50%だったが、同じ年の中国では2.6%にすぎなかった。ところが07年には、12.3%にはね上がっていた。

小規模事業のレベルでは、テクノロジーは新興市場できわめて重要なツールになっている。たとえばアフリカの小規模農家は、携帯電話で気象情報や作物の市場価格を簡単に知ることができる。中国では、われわれが調査した小規模事業経営者の57%が、「テクノロジーは事業の競争優位を生み出すためにきわめて重要だ」という見解に強く同意すると答えた。途上国企業の電気通信支出、とりわけ無線通信支出は、この先5年、大幅な増加を示し、一方で成熟したヨーロッパ市場の支出額は途上国市場より大きくとも増加ペースは遅いと、業界アナリストは予測する。

飛躍的前進は広く見られる現象になっている。多くの消費者が、デスクトップ・パソコンではなく、はじめからノートパソコンを購入している。また、多くの新興市場の通信事業者が、携帯電話による支払いや送金などのサービスを提供するようになっている。ケニアのサファリコム(ケニア政府とボーダフォンの合弁会社)のM・PESAは、顧客が携帯電話を使って送金などの基本的な取引を行えるサービスを提供している。