何が勝ち組と負け組を分けるのか。雑誌「プレジデント」(2017年3月6日号)の特集「『働き方』全課題60」では、「超一流の仕事術 全解明」として、より成果を上げるためのノウハウを各方面のエキスパートに取材。今回は、京都大学客員准教授でエンジェル投資家の瀧本哲史氏が「生産性アップ」について解説する――。

ショートカットキーを覚えれば生産性は上がるのか

「生産性を上げろ」とよく言われるが、意味の取り違えも散見する。生産性とは、「得られた成果」に対する「投入した資源」の割合を指す。成果が同じであれば、仕事のスピードが速いほど生産性は上がるから、タッチタイピングを練習したり、ショートカットキーを覚えたりする人がいる。間違いではないが、それは本質ではない。

マッキンゼーの人材育成マネジャーだった伊賀泰代氏は、近著『生産性』(ダイヤモンド社)で、主に2つのことを論じている。1つは「改善」ではなく「革新(イノベーション)」によるアプローチの重要性。もう1つはイノベーションを引き起こせるような人材登用とチーム編成のあり方。この指摘は重要だ。『生産性』という書名だが、そこには「デスクワークを効率的にこなそう」ということは書かれていないわけだ。なぜなら、それぞれの働き方を変えるぐらいではイノベーションは起こらない。生産性を上げるには、チームや組織全体を変える必要がある。

これは生産性の定義を正しく理解していれば、すぐわかることだ。たとえばひとりのビジネスパーソンの生産性を測る場合、投入資源(インプット)となる分母は「どれだけ働いたか」、成果(アウトプット)となる分子は「どれだけお金を稼いだか」となる。このため、おおよそ、給与が高い人ほど生産性は高い。しかし「給与が高い人ほど、仕事がデキるか」といえば、そうではないのは明らかだろう。

給与は企業規模と比例する。これは「大企業の従業員は中小企業より能力が高いから」ではない。給与が高いのは、大企業のほうがより効率的に儲かる仕組みをもっているからだ。中小企業であっても儲かっている企業は給与が高い。それが「生産性の高い企業」ということだ。

個人の立場で生産性を上げようとするなら、より給与の高い企業へ転職すればいい。仕事のスキルを磨いて、昇進を待つより手っ取り早い。一方、所属する組織の生産性を上げたいと考えているなら、伊賀氏が説くように、チームレベルで問題解決を図る必要がある。