シュプリッツァーをフランケンで

うっとうしい雨が続くと、なにかスッキリするものがほしくなる。

「シュプリッツァーでも飲むか」

そうと決まると足首の痛みも跛行もなんのその傘をさしてうきうきと外出である。そこは呑んべえたるゆえん で、はや頭のなかでは、甘口ならスーパーでも手に入るけど、辛口となると、フランケン。はてさて置いているとしたら、あの酒屋か、それとも、などと想像しつつ、にやにや薄笑いを浮かべる始末。

シュプリッツァーを教えてくれたのは、数年間ドイツで暮らしていた友人で、彼もそのとき交際していたドイツ 女性から伝授されたのだそうな。作り方は、ワインを炭酸水で割るだけ。きわめて単純だが、ワインは高級品 、との先入観があると、それを打破して「割る」なんて、思いついたとしても実行に移すのはなかなか勇気が いる。吟醸酒を水割りかソーダ割りにするようなものだろう。

「なんか、もったいないし、甘いんじゃ……」
「ぶつくさ言わず、飲んでみろ」

はつらつとした味と咽喉ごし、かすかにナッツのかおりを残し、ちゃんとアルコールの刺激もある。こんなドイツワインもあるのか、と瓶を見せてもらって、

「なんだマテウスか」
「ちがう。よく見ろ」

ラベルには、フランケンとある。

かつてドイツを旅した際、ライン下りを体験した。乗船したのがマインツで、下船はコブレンツであった。マインツはマイン川と合流する場所にあり、その上流にはフランケンがある。コブレンツとの間は、ラインガウ 、ラインヘッセン、コブレンツで合流するモーゼル川の流域にはモーゼル・ザール・ルーヴァーと、ドイツワインを代表する生産地がひかえている。そこをただ通過しただけとは、いまも痛恨の極みで、あわれ無知な貧乏学生は、ワインは高級だからと見向きもせず、ひたすらビールをがぶ飲みしていたのである。