メタボリック・シンドロームは循環器疾患の予備軍

肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病が重なると、動脈硬化や虚血性心疾患を起こしやすいことから「死の四重奏」と呼ばれていた。しかし、この名前はあまりにインパクトが強すぎて、「実は『死の四重奏』と医者に言われてね」などと簡単には会話では使えない。そこに登易したのが、「メタボリック・シンドローム」であった。内容は「死の四重奏」とほとんど同じなのだが、「メタボ」という名前には抵抗感が少なく、当時のおじさんたちのあいだで話題になり、2006年の流行語トップテン入りをした。

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メタボリック・シンドローム(Metabolic syndrome)は、2008年に国際的にいくつかの学会が提案した概念である。日本肥満学会によるメタボリック・シンドロームの診折基準は次の通りである。

・ウェスト:男性85cm以上、女性90cm以上
・血圧:収縮期130mmHg、拡張期85mmHg以上
・空腹時血糖:110mg/dl以上
・中性脂肪:150mg/dl以上かつ/またはHDLコレステロール40mg/dl以下

以上の数値のうち、ふたつ以上に該当する場合をメタボリック・シンドロームという。

肥満だけでは「メタボ」の十分条件にならないが、肥満特に腹部の肥満はメカニズムの上で大きな役割を果たしている。「皮下脂肪は定期貯金、内臓脂肪は出し入れ簡単な普通貯金」という説明が、厚労省の「eヘルスネット」に出ている。皮下脂肪は、過剰エネルギーをゆっくりと脂肪として蓄積するが、内臓脂肪は、速やかに反応し、たとえば運動をするとすぐに燃える。メタボリック・シンドロームを改善するには、食事の改善と運動という常識的な予防法が有効であるのだ。つまり、本人の心がけ次第である。

「全死亡の16.1%は運動不足による」という日本人の問題

現代社会は、便利さを求めるなかで、人々が体を動かさなくてもすむようになってきた。どこに行くにも車がある。階段の代わりにエスカレーター、エレベーターがある。重い荷物は宅配便が運んでくれる。子どもたちは、外で遊ぶ代わりにゲームに夢中だ。加えて、コロナ禍である。

運動不足は、重要な病気に影響する。2012年、『ランセット』誌に発表された世界各国の分析によると、日本は特に運動不足が目立ち、全死亡の16.1%は運動不足によるという。運動不足が関わる生活習慣病には次のような病気がある(カッコ内%は運動不足の寄与率)。

・冠動脈疾患(10.0%)
・高血圧
・脳卒中
・メタボリック・シンドローム
・2型糖尿病(12.3%)
・乳がん(16.1%)
・大腸がん(17.8%)

運動不足が解消すれば、日本の平均寿命は0.9年延びるという。