感情を伝播させる「ミラーニューロン」

「ありがとう」や「いい顔」といったポジティブな言葉や表情がチーム内にもたらす効果は、脳科学的にも説明できます。そのカギを握るのは、「ミラーニューロン」という脳の神経細胞の存在です。

ミラーニューロンとは、他人の行動やしぐさを見て、自分も同じ行動やしぐさをしているかのように反応する脳の神経細胞です。

映画鑑賞中に、悲しい情景がスクリーンに映し出されると、自然と涙が出る。スポーツを観戦中に、劇的なゴールシーンが生まれると、思わずガッツポーズが出る。このような他人に感情移入する心の動きは、ミラーニューロンの働きによるものと言われています。「ミラー(鏡)」という言葉が表すとおり、まるで鏡に映したように、相手の行動や感情が自分の脳内で再現されるのです。

このミラーニューロンの働きがあるから、「ありがとう」と言われた人がうれしそうな表情を見せたら、その表情を見た周りの人もうれしい気持ちになる。そして、プラスの雰囲気がチーム内に広まっていくのです。

同様に、マイナスのイメージを連想させる言葉や表情もまた、ミラーニューロンの働きによってチーム内に悪い雰囲気をつくり出してしまいます。

たとえば、職場で上司が社員を叱責しているとします。叱られた社員は、自席に戻って一人落ち込んでしまう。こういった一連のやり取りもまた、それを見た人に叱られた社員と同じような心情を呼び起こしてしまい、暗い雰囲気が感染症のように一気にまん延してしまうのです。

この暗い雰囲気の広がりを喰い止めるためにも、叱責されて落ち込んでいる社員には何とか早く立ち直ってもらいたい、でも直接声をかけづらい……そんなときには、間接的に「ありがとう」という言葉をその社員の耳に届けてあげることが効果的です。

そうすると、その社員の脳の中で、過去に自分が「ありがとう」と口にしたとき、あるいは言われたときのポジティブな感情とイメージが呼び起こされるため、落ち込んでいた気持ちが和らぐというわけです。

このように、直接的に働きかけなくても、ミラーニューロンの働きを活かし、間接的にプラスの言葉や表情を伝えることで、マイナスの雰囲気を和らげ、プラスに変えることができます。それだけ、言葉・表情・動作が感情におよぼす影響は大きいのです。