「英国王のスピーチ」の“攻めた表現”にどきり

陛下と雅子さまは29日に帰国、「ご感想」を公表した。それは「この度、英国政府から国賓として御招待を頂き、二人で同国を訪問できたことをうれしく思います」に始まり、「うれしく」と「うれしい」が合計7カ所。本当に良い訪問だったと思いつつ、少しだけ別な感想も持ったので、そのことを書く。

晩餐会では陛下より先に、チャールズ国王がスピーチした。「ハローキティ」や「ポケモン」や「英国におかえりなさい」が主に報じられていたが、全訳を毎日新聞HPで読み、少し驚いた。日英の「深い友情」に触れた部分が攻めていたのだ。

国王は深い友情を「歴史の教訓、とりわけ暗い時代の教訓から生まれた、国際ルールと制度の重要性に対する相互理解に基づくもの」だと述べ、こう続けた。「今日、私たちはこれらの原則がかつてないほど問われる世界に直面しています。私たちが共有している自由、民主主義、法の支配という普遍的価値観が今ほど重要になったことはありません」。

世界中で「自由、民主主義、法の支配」がないがしろにされている。その事実を述べていた。国王の「今」という時代への問題意識の表明で、攻めた表現にどきりとさせられた。陛下のスピーチにはないものだ。

具体的な言及には「テーマ」が必要

陛下と雅子さまのお誕生日などの文書を読んでいつも思うのだが、お二人は「具体」を避ける傾向にある。天皇は「日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴」であって、「国政に関する権能を有しない」と憲法に定められている。

そのことが、何か個別具体的なことへの言及にブレーキをかける。きまじめな優等生だから、拍車がかかる。そう理解はしている。だが具体がないと、一般論になる。

晩餐会でのスピーチで陛下は「現在」について、「我々の社会は、ますます多様化・複雑化し、地球規模の各種課題に直面しており、世界全体で一層英知を結集しこれらの重要課題の解決に努める必要があります」と述べた。その通りです、という以上の感想は浮かばない。

テーマがあればいいのに。陛下と雅子さまを見るたび、そう思う。上皇さまと美智子さまは平成の時代に「慰霊の旅」をテーマとした。戦争という昭和が積み残した問題を清算する。そういう問題意識がはっきりと見てとれた。切実さが気迫となって伝わってきたから、国民は高く評価した。

現在の陛下はライフワークとして「水問題」に取り組んでいる。今回も世界最大の可動式防潮施設「テムズバリア」を視察した。英国訪問に先立っての記者会見では、「水の恩恵を享受しつつ、災害に対応することは、歴史を通じた人類共通の歩みでもあり、各国の水を巡る問題を知ることは、それぞれの国の社会や文化を理解することにもつながります」と述べていた。これもその通りなのだが、やはり「ご研究」だと思うのだ。

写真=iStock.com/Alihan Usullu
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