シリコンバレーはイノベーションの聖地に

現代では、イノベーションが国家安全保障にとっても重要であることは広く認識されています。

民生用と軍事用の技術の根っこは同じで、どの国でも国家主導でシリコンバレーを再現しようとしてきましたが、いずれも成功していません。シリコンバレーは世界中の多くの人々が真似をしようとして失敗してきた場所でもあり、シリコンバレーに行けば特別の成功の秘訣が学べる、ある種の聖地巡礼の場所にもなっています。

しかしそもそもシリコンバレーの成立自体が意図的な政策によるものではなく、偶然の連鎖によって長い年月をかけて発達してきました。同じようなエコシステムを人為的に作るのは、長い年月を要すると考えられます。

日本の場合、具体的にできることがもし何かあるとすると、大学の改革になるでしょう。

アメリカの強さの秘密は大学にある

アメリカの真の強さ、国力の源泉は何かを考えると、その一つは間違いなく「大学」にあります。アメリカの大学のレベルは世界一であり、工学、医学、農学、法学、経済学等、あらゆる分野で圧倒的に強い。大学の世界ランキングでは、上位100位のうち60以上がアメリカの大学で、ランキングによっては、日本は東大でも上位に入っていないことがあります。

こういうことを言うと、アメリカ人の能力はそれほど高くない、ランキングは英語圏に偏っている、といった批判が返ってきますが、そうした批判は的外れです。アメリカの大学のレベルが高いのは、アメリカ人の知能レベルが高いからではありません。優秀な学生が世界中から集まってくるからです。

たとえばMITの大学院では、外国人が60%を占めています。大学同士の競争は熾烈であり、シビアな競争原理で株式会社のように経営されているため、世界中から優秀な学生を集めることができるのです。

私の元上司でマッキンゼーの日本支社長だった大前研一氏は、彼の母校であるMITの理事を5年間勤めましたが、彼はシビアな大学運営の実態に驚いていました。

MITでは化学、機械、電気など、それぞれの分野ごとに3年に1回、各学部の業績をチェックし、もしランキングで1位から2位に落ちた分野があれば、そこの学部長を数人の理事からなる強化委員が、「なぜ2位に落ちたのか」「教授の質に問題があるのではないか」と追及し、1位を奪還するための方策を1年以内に提出することを要求する、というのです。

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