妊娠・出産は女性の人生を歪める重石
たとえば妊娠・出産だけを考えても、それがどれだけ女性の人生を歪める重石になっているか。そのことに、当事者の女性以外が気づいているのでしょうか。
受精後、270日の間、自分の体の中に、もう一人の命が同居することになります。
当然、体中の生命維持システムに大変更を余儀なくされ、発熱や悪心、嘔吐、浮腫、体重増加、腹痛など、一般の人で言うところの「病気・不調」に相当する状態が、長らく続くことになります。
その先に、陣痛がある。体は悲鳴を上げ、歯や髪にダメージが及び、膝や腰を痛めることもあるでしょう。
その間、パートナーである男性は、少なくとも体には何の変調も来しません。こうした非対称性に、まずは気づく必要があります。
もし、それまでピンピンしていたのに、ある日を堺に突然、体全体に不調を来し、その状態が270日も続いたら耐えられるでしょうか。
妊娠は、女性の嗜好や食生活も大きく変えてしまいます。
子どもを産み、授乳期を終えるまでの間、飲食が厳しく制限されます。お酒はもちろん不可で、バランスの悪い食事が続くことも許されません。塩分をはじめとしたミネラルについても指導を受け、ビタミンにも気を使わなければなりません。妊娠〜授乳期を合わせればトータル2年近く、こうした状態が続きます。
それは、酒好きな人なら分かりやすいでしょう。いきなり、大好きなお酒を2年間、飲んではダメだと言われたら……。
揚げ物や甘味が大好物の人が、2年間それを慎めと言われたら、どうしますか?
男と女の大きすぎる負担の非対称性に気づいているか
こうした肉体的な制約は、まだ、事の始まりにしか過ぎません。
妊娠は女性の生活全体をも大きく変えてしまうのです。
出産後、一年近くは、数時間おきに、授乳とオムツ変えを繰り返すことが余儀なくされます。文字通り、寝ている暇もありません。もちろんこれらは父親にもできるわけですが、母親と同等の負担を担えている父親は依然として少ないと言わざるをえません。
子どもが歩き出せば、そこらを徘徊し、手当たりしだい何でも口にします。四六時中、目が離せない日が続くのです。
子どもを連れての外出は、極端に行動を制限されます。抱っこひもでもベビーカーでも、それは同じでしょう。電車に乗るのもお店に入るのも難渋します。その上、とてもよく泣く。その度に、周囲に気を使ってヒヤヒヤせねばなりません。
自由時間が極端に減り、着たい服が着られなくなり、食べたい食事も取れなくなる……。
少し羽を伸ばしたりすると、「母親なのに」「幼な子がいるのに」と白い目で見られる。
人生全体が、思うままにいかなくなる。その状態が、短くても5年は続くのです。
その間、パートナーにも確かに負担は降りかかるでしょう。ただそれは、多少のイクメンサポートと、幾ばくかの精神的負い目・義務感が、そのほとんどです。
好きな食事を自由に取り、誰はばかることなくお酒を飲み、夜に仕事や会合を重ね、服装も独身時代と変わらず通せてしまう。その、負担の非対称性に気づいている人がどれほどいるでしょうか。