「安い日本」は最大のチャンス

――30年間も低迷した国内投資がそう簡単に増えるでしょうか。

これまで投資減税や立地補助金など、企業の国内投資を増やそうと一生懸命手は打ってきました。何もしてこなかったわけではありません。でもそれだけでは足りなかった。

少子高齢化が進む日本より、経済成長率は海外の方が高いわけです。中国だけでなく、米国やEUが大きな予算を組んで国内に工場を作れば有利になる仕組みを作っています。そこで「補助金を準備したのでどんどん日本に投資してください」と呼び掛けるだけでは、企業が日本に戻ってくるメリットは薄いのだと思います。

しかし近年、多くの日本企業が国内投資に意欲的になっています。続々と国内生産を強化する方針が公表されているんです。

2023年3月の企業短期経済観測調査(日銀短観)によると、2022年度の設備投資計画実績見込みは前年度比+11.4%と同時期としては過去4番目の高水準の伸び率となっており、2023年度の見通しは同+3.9%と同時期としては過去最高となっております。国内回帰が進む理由は4つあると思います。

撮影=遠藤素子

国内回帰が始まった4つの理由

第一に、日本人の人件費が相対的に安くなってしまったということ。日本企業の部長級の平均年収はタイと比較して約120万円少ないというデータもあり、優秀な人材に適切な報酬が支払われていない状況です。日本の大卒者平均初任給(ボーナス込み、年収)は351万円で、米ニューヨーク州の最低賃金でフルタイム労働をした場合の年収397万円を下回るほどです。

第二に、コロナ禍やウクライナ戦争に端を発した供給制約の拡大です。以前は安い場所でモノを作ることが企業にとって一番でしたが、不確実性が高まったことで海外進出のコストが大きくなりました。経済安全保障の観点からも、安定した日本国内に生産拠点を移そうという動きにつながっているんです。

第三に、洋上風力やバイオテクノロジーといった国内の新しい成長分野に投資する企業が増えたこと。そして第四の理由は、この30年で日本が「安い国」にかわったこと。1990年代の日本は物価高・円高で、国内外の価格差は大きくなるばかりでした。しかし20年以上デフレが続き、賃金や物価が上がらない状況が続きました。足元では急激に円安が進み、海外から見ればすべてが安くなってしまったのです。