特養ホームの申し込みは低価格の旧型に集中

これは社会福祉法人の運営に関わる問題でもある。特養ホームは営利目的の高齢者住宅ではなく老人福祉施設である。ホテルコストを基準額より高く設定する場合、運営上やむを得ないと判断されたものに限られている。しかし、減額対象となる第3段階までの高齢者を入所させると、ホテルコストは基準額までしか徴収できないため収支が悪化する。「一定数は第4段階でなければ経営できない」「資産収入も勘案せざるを得ない」と話す施設長は少なくない。

特に、収入資産階層が低い人が多いと言われる地域のユニット型特養ホームに空所が目立つと言われている。京都の老健施設やケアマネジャーにまで、「大阪の特養ホームならすぐに入所できます」というDMが届いていると聞く。

待機者は全国で30万人と言われているが、ここにはもう少し詳しい分析が必要だ。現在の特養ホームは、従来の4人部屋の旧型特養ホームと個室のユニット型特養ホームの2つに分かれている。旧型特養ホームの場合、月額費用は0~9万円程度と低価格に抑えられている。

そのため特養ホームの申し込み、待機者はこの旧型に集中していると言われている。実際、旧型・ユニット型など複数の特養ホームを運営している施設長・理事長と話をすると、「ユニット型は入りやすい、旧型は待機期間が長い」という意見が多い。

ただこれは、自治体や地域性によっても違いがある。「自治体ごとに旧型とユニット型の待機者数や待機年数の違いを分析すべき」「その分析に基づいて整備する施設を検討すべき」とずいぶん前から指摘しているが、それが行われた形跡はない。厚労省は2025年までに、ユニット型を全体の7割にする目標を立てている。

富裕層のために巨額の税金が使われている

「特養ホームを造るな」とは言わない。これからも契約に基づく介護だけでは対応できない、「要福祉」の要介護高齢者・認知症高齢者は増えるからだ。しかし、ユニット型特養ホームを作ると、そこに財源や人材が集中するため地域全体の介護体制は脆弱になる。

また、いまの歪んだ制度のまま莫大なコストをかけてユニット型特養ホームを作り続けても、入所できるのは公務員や大企業社員など、高額の退職金や年金を得られる人に限られている。これから後後期高齢者になる団塊世代はリストラ世代とも言われ、その先の非正規雇用世代が後後期高齢者になれば、ユニット型特養ホームに申し込むことのできない高齢者の割合は更に高くなる。

資本主義社会において、一定の収入格差が発生することはやむを得ないが、社会保障・社会福祉において、その格差が引き継がれることは明らかに社会正義に反する。一部の富裕層・アッパーミドル層のために巨額の社会保障費が投入され、セーフティネットという名目で高級老人福祉施設が作り続けられている国は、一部の社会主義国か日本くらいのものだ。