製造業の高卒初任給は東京都の最低賃金を下回る

賃金の低下を象徴するのが、最低賃金が高卒初任給に肉薄している現実だ。今年10月1日から最低賃金(最賃)がアップし、地域別最賃の全国加重平均は昨年を31円上回る961円になり、過去最高額の3.3%アップとなった。最も高い東京都は31円アップの1072円だが、東京都の最賃を単純に試算すると月額17万1520円(1072円×160時間)だ。

産労総合研究所が調査した22年度の高卒初任給の平均は17万3032円。企業規模別では大企業17万6269円、中堅企業(従業員300~999人)17万1470円、中小企業17万2077円(0.93%増)。最賃が正社員の高卒初任給に肉薄していることがわかる。

そして連合の2022春闘の企業内最低賃金の回答集計(月額・11月7日)によると、製造業の回答額は16万5962円、金融・保険が17万6050円。企業内最低賃金は高卒初任給を想定しているが、金融・保険を除いて東京都の最賃を下回った。主要な産業別労働組合の回答も東京都の最賃を軒並み下回っている。電機連合が16万6903円、基幹労連が16万6514円、電力総連が16万7400円だ。

日本の基幹産業といわれる自動車産業で組織する自動車総連も16万4231円だ。自動車総連は2020年の春闘要求で初めて企業内最低賃金を「18歳16万4000円以上」とする労使協定方式を盛り込み、2022年も高卒初任給に準拠した「18歳16万8000円以上」での協定化を掲げた。しかしこの水準すらも東京都の最賃を下回った。

そもそも日本の最低賃金制度は1959年、当時多かった中卒初任給の最低額を決定する業者間協定方式の法制化に由来する。つまり最賃の出発点は中卒初任給を下回らないとするまさに最低の賃金水準だった。ところが今や高卒初任給が最賃を下回るという60年前の状況に逆戻りしている。

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賃金抑制の影響で人材が外資系に奪われている

しかし、こうした賃金抑制による企業の競争力維持策はもはや限界に達し、弊害が顕在化している。1つは賃金低迷が消費支出を抑制し、企業がさらなる低価格戦略に走るというデフレスパイラルの悪循環を露呈し、人口減少下の日本経済をシュリンクさせたのは間違いない。

2つ目の賃上げせざるをえない理由は、賃金抑制の歪みで企業の人材獲得競争力が失われていることだ。デジタル化などイノベーションによる付加価値創造には優秀人材の獲得が不可欠だが、今では新卒を含めて外資系企業に奪われているのが実態だ。そして少子高齢化による労働人口の減少で人手不足が深刻化することは目に見えている。

すでに近年、大企業を中心に新卒初任給を25万~30万円に引き上げる動きあるが、まさに人材獲得や流出への危機感の表れだ。