ホテルやコテージを短期間で転々とする

もう一つの大きな切り口となるのが、この被害者宅に嘘の電話をかける「かけ子」の拠点摘発だ。

嘘の電話は、詐欺グループにとって犯行の軸となる重要な中枢機能であり、かつ捜査機関にとっても最も叩きたい拠点と言っていい。だからこそ、捜査の網をかいくぐる方法が次々と編み出されていく。捜査関係者はこぼす。

「車のほかに、ホテルやウィークリーマンション、別荘地のコテージなどでも行われている。いずれも短期間で転々としていく。発信源を突き止めて、追い掛けてガサ(強制捜査)に入っても、既にいないというケースが大半です」

木村は、10代半ばから窃盗や詐欺を重ねてきた。バイク盗を繰り返し、15歳の時に初めて補導され、書類送検された。高校生になると間もなく、特殊詐欺の「受け子」を始めた。

ほかにも無銭飲食、詐欺、窃盗。鑑別所を出て1年足らずで再び逮捕され、少年院に送られた。しかし罪の意識は、限りなく薄かった。

「外に出れば、先輩や後輩がいるし」と笑う。

さらに犯罪を繰り返した。暴行、傷害、略取、監禁。再び逮捕・送検されたが不起訴になった。半年ほど前、特殊詐欺の指示役として有罪判決を受けたのは「脇が甘かった」と苦笑いを浮かべる。

地元の後輩に仕事を紹介したことがきっかけ

逮捕のきっかけは、地元の後輩からの相談だった。

「金が必要なんです。『仕事』を紹介してもらえませんか?」

木村は、特殊詐欺の受け子と出し子を兼務する「仕事」を紹介した。通常、受け子や出し子の勧誘は、ツイッターなどのSNSを通じてリクルートし、指示役や詐欺グループのメンバーが直に接触することはない。末端は逮捕されやすく、捜査の手が及んでくるリスクが高いからだ。だが、木村のように地縁がきっかけのようなケースでは、逮捕された末端が取り調べに対し、紹介者を口にすれば、あっけなく身柄を押さえられる。

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木村は、心を許した後輩の依頼に応じたことを悔やむ。「しくじったって感じ。まぁ、起訴猶予になりましたし。次はパクられないようにしますよ」とまた苦笑いを浮かべた。「後輩に紹介したのがどの詐欺の案件だったか? そんなのもう忘れましたね。俺も、(組織の)上の人から『一番、二番を用意できるか?』と言われただけだし」

木村はあっけらかんと言ってはばからない。