“手当り次第”より“前年を踏襲”のほうが確率が上がる

メスのほうはというと、みんな一斉に到着するわけではなく、到着したときにフリーでいるオスなら誰からでも求愛される可能性があります。これが、生物学者の言うところの「実効性比」であり、その集団における実際の性比と区別されています。実効性比とは、交尾の時点でメス一羽当たりに実質的に何羽のオスが交尾相手となり得るか、という比率を表すものです。

イカした女の子に向かって口笛を鳴らすのと同じことを、オスは動くものすべてに対して続けるわけですが、カップル成立のための最善策は、前年と同じパートナーとの再会を目指すことです。そのために、オスは前年に巣を構えたのと同じ場所に戻り、そこを待ち合わせ場所として使います。これが、オスが自分の巣の場所に執着する理由です。アデリーペンギンなど、前年とぴったり同じ場所で巣作りするオスが、多いときには99%も見られます。

でも、待ち合わせするには、タンゴを踊るときと同じで、二羽が協力する必要があります。では、メスにとってはどうなのでしょう? なぜ、メスのほうも前年と同じ場所に戻って来るのでしょうか?

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種によっては離婚率が50%に達するペンギンもいる

メスが新しいパートナーを探す際、よいオスであるかどうか判断するのに、オスがどのような場所を確保しているか、あるいは求愛コールの具合などをチェックできますが、これは科学的に万全なアプローチではありません。もっとずっと確実な方法は、昨年はこのオスと組んで成功したと、すでにわかっているのなら、同じオスとつがいになることです。

前年に子育てに成功したメスは、まさにその手を使います。前と同じオスに寄り添う姿は、前年に繁殖に失敗したメスとは対照的です。メスも前と同じ場所に戻って来れば、鳴き声に基づき前と同じオスを見つけ出し、再会することができます。再会したつがいは、まるで首に腕を回し愛撫するように、お互いにしきりに声をかけ合い、首を上下に振り合います。

しかし、前年にヒナを無事に育てることができなかったつがいでは、あわれなオスはメスに離婚を言い渡される可能性が高いのです。生涯連れ添う話はどこへやら。種によっては、離婚率が50%に達するペンギンもいます。人間の場合とそう変わらない確率です。

エンペラーペンギンなど、巣を持つということをしないので、特定の待ち合わせ場所がないわけですが、そうなると離婚率も非常に高く、子育てに成功したつがいですら離婚してしまう例が後を絶ちません。