「バイオ燃料」により穀物価格をつり上げる
一般に挙げられている食料需給の逼迫要因については冷静に見ておくべき側面も多く、世界的な食料需給が一方的に逼迫を強めるとは考えにくい。
つまり、需給が逼迫するからといって一方的に穀物価格が上がり続けるという悲観的な見方をする必要はない。価格が上昇と下落を繰り返しながら需給を調整していくのが市場である。
では何が問題かといえば、ひとたび需給要因にショックが加わった時に、その影響が「バブル」によって増幅されやすい市場構造になっているということだ。
その根本にあるのはつまり、アメリカの世界食料戦略である。
というのも、アメリカが農産物の自由貿易を推進し、諸外国に関税を下げさせてきたことによって、今では穀物生産を自国でまかなえず、穀物を輸入に頼る国が増えてきたという構造的問題があるからである。
一方、アメリカには、トウモロコシなどの穀物農家の手取りを確保しつつ世界に安く輸出するための手厚い差額補塡制度がある。
しかし、その財政負担が苦しくなってきたので、何か穀物価格高騰につなげられるキッカケはないかと材料を探していた。
そうした中、国際的なテロ事件や原油高騰が相次いだのを受け、アメリカは原油の中東依存を低め、エネルギー自給率を向上させる必要があるとの大義名分を掲げ、トウモロコシをはじめとするバイオ燃料推進政策を開始したのである。
その結果、見事に穀物価格のつり上げを成功させた。
トウモロコシの価格の高騰で、日本の畜産も非常に厳しい状況に追い込まれたが、トウモロコシを主食とするメキシコなどでは、暴動なども起こる非常事態となった。
メキシコでは、NAFTA(北米自由貿易協定)によってトウモロコシ関税を撤廃したのでアメリカからの輸入が増大し、国内生産が激減してしまっていたところ、価格暴騰が起きて買えなくなってしまったのである。
また、ハイチでは、IMF(国際通貨基金)の融資条件として、1995年に、アメリカからコメ関税の3%までの引き下げを約束させられた(Kicking Down the Door)。
そうしてコメ生産が大幅に減少し、コメ輸入に頼る構造になっていたところに、2008年の各国のコメ輸出規制でコメが足りなくなり、死者まで出ることになったのである。
まさにアメリカの勝手な都合で世界の人々の命が振り回されたと言っても過言ではない。