自国で生産可能なエネルギーについても注目したい。日本国内で消費するエネルギーは、原則国内で生み出されたものを使っている。
それに対して、電力の自由化が進む欧州では、各国が電力網(グリッド)でつながっていて、不足する電力は購入できる仕組みなのだ。そのため、ドイツは原発停止当時は、フランスやチェコなどからの輸入電力でまかなったが、「今回、隣国から電力を購入したのは、そのときの電力価格が安かったからで、7基の原発停止分の電力を輸入せずとも、国内の電力をまかなえたのではないか」(地元ジャーナリスト)との指摘もある。そうなると、原発分である23%分のエネルギーがなくても、ドイツにはそんなに大きな経済的なダメージはなかったことになる。
そもそもドイツは石炭資源が豊富な国で、長らく余剰電力を他国に「輸出」し続けてきた。電力のベースロード(ある期間における最低の、変動することのない稼働状態のこと)の多くを石炭と褐炭(純度の低い石炭)が占めるため、資源の輸入が減っても、国内の石炭で、ある程度まかなうことが可能なのだ。ここに、エネルギーのほとんどを輸入に頼らざるをえない日本と大きな違いがある。
石炭を燃やせば当然、CO2が発生するわけで、地球環境を守るうえでも、CO2を発生させない「再生可能エネルギー」の普及を急ぐ必要がある。そのためドイツでは再生可能エネルギーの補助金に、約1兆3000億円を出して普及を促進する政策を採っている。しかしながら、再生可能エネルギーの普及に熱心なドイツにとって「ボトルネック」の問題がある。それは、国内の送電網が未整備なため、それらをいかに充実させ、拡充させるかに頭を悩ませているのだ。
ドイツには、アウトバーンと呼ばれる自動車専用の高速道路が存在するが、電力網も自動車道路のように張り巡らしたいと考えている。
「国内の南北に“電力アウトバーン”を敷設し、エネルギーの安定供給をはかる必要がありますが、住民の反発などで建設は進んでいません」(ヨッヘン・ホーマン氏)
ドイツは世界第3位の風力発電大国で、風力発電の多くは、強い風が期待できる北部などを中心に建設されている。しかし、電力を大量に消費する地域は、ダイムラーやBMWなど世界的な製造業の拠点がある南部地域に集中していて、原発の密集地域でもあるため、このままでは電力が足りなくなる恐れもある。だから北から南への4500キロに及ぶ“電力アウトバーン”の建設が不可欠なのだ。
しかしながら、現状は甘くない。電磁波などの影響を懸念してか、送電線の建設に地元住民の反発が根強いのだ。ドイツ政府は法律を改正し、早急な送電線の拡充に道を開こうとしているが、送電線の拡充こそが、再生可能エネルギーが普及につながるかどうかのカギとなる。
※すべて雑誌掲載当時