政府や組織委が国民の方を見ていない問題

陛下がそのように行動せざるを得ない状況を「天皇や宮内庁から気を回す状況」と表現したのは、名古屋大学の河西秀哉准教授(歴史学)だ。開会宣言を受けての発言で、「『拝察発言』といい、天皇や宮内庁から気を回す状況は、逆に象徴制度を危うくさせうる」(朝日新聞7月24日朝刊)と河西さん。

陛下と宮内庁が、開催について二分されている国民の思いを考えに考え、その結果、象徴の矩を越えるような発言をする。その危うさの指摘だ。同時に、政府や組織委員会が気を回していない、つまり国民の方を見ていないという指摘にも読める。

そして、繰り返しになるが、その問題点を陛下は十分に認識していたと思う。それでも踏み込んだのはコロナ禍を案じる思いの強さに加え、「ここで踏み込まずして、いつ踏み込む」だったような気がしている。

感染拡大防止で国民と直接会えなくなった両陛下

陛下と雅子さまの日々に目を転じれば、コロナ禍で赤坂御所と皇居を行き来せざるを得ない状況だ。宮内庁ホームページで「天皇皇后両陛下のご日程」を見ても、4月以降でお二人が外に出たのは「みどりの式典」(4月23日、千代田区・憲政記念館)、「日本学士院授賞式」(6月21日、台東区・日本学士院会館)、「日本芸術院授賞式」(6月28日、台東区・日本芸術院会館)の3日だけ。福島県行幸啓(4月28日、東日本大震災復興状況ご視察)、熊本県などへの「ご訪問」(5月12日、子どもの日にちなみ)、島根県行幸啓(5月30日、全国植樹祭にご臨場)、宮崎県行幸啓(7月3日、国民文化祭など開会式ご臨席)もあるが、すべてオンラインだ。

感染拡大防止の観点からだが、直接国民と会えないのは厳しい。上皇さまと美智子さまは平成にあって、災害現場や戦争跡地に足を運ぶことで国民からの敬愛を得た。陛下と雅子さまもこれを踏襲、お二人が出かけ、人が集まり、それをメディアが報じた。適応障害という病を得ながら、明るく笑う雅子さまの人気は高まる一方だった。そういう好循環が、コロナ禍ですっかり封じられた。

英国をはじめ、各国王室はSNSを活用している。公務のほか家族とのプライベート写真もアップ、コロナ禍でも存在をアピールしている。が、皇室のネット活用といえば、宮内庁ホームページのみ。「このホームページは、天皇皇后両陛下・皇族方の宮殿・御所などでのご公務や国内各地へのお出まし、外国とのご交際など皇室のさまざまなご活動を中心に紹介しています」とトップページにあるが、7月29日現在も陛下の五輪開会宣言の写真はなく、SNS時代のスピード感とは遠い印象だ。