「あなた、バカでしょ」数学教師の言葉に負けず嫌いの性格を発動
ちなみに、東大進学という選択肢を最初に示したのは母・裕子さんだ。
「中学生くらいだったかと思います。大型の動物と接したいなら大きな牧場があるなど環境が整っている国公立大学の獣医学部がいいと母に言われました。家から通える国公立大なら、東大の農学部の獣医学科しかないね、って。そのときは冗談で話していたんですけどね」(理子さん)
理子さんにとって、「冗談」だった東大という選択肢が、ゆうかさんとの出会いで、一気に現実的なものになった。
理子さんの勝気な性格を表すエピソードがある。やはり高校2年生のときのことだ。数学の授業中、教師の話をたまたま聞いていなかったときに、質問をされて頓珍漢な答えをしたことがあった。
「あなた、バカでしょ」
ふだんはそんなことはないのに、あまりに的外れな受け答えに、教師は叱咤激励する気持ちで言ったのだろう。
だが、理子さんは「たまたま上の空だっただけなのに……」とイラっとした。その後の行動がいかにも勝気な彼女らしい。
「その授業の後、1カ月間は自宅でずっと数学の勉強だけをしていました。その後に学校で受けた模試で数学の点数はすごく伸びました」
まさに、してやったり。「見返してやる」という気持ちで頑張ったからこそ、地力をつけることに成功したのである。
また理子さんは、この数学に限らず、自分が解けない問題があったとき、教師などに気軽に相談するということはしない。教えを請うみたいで嫌なのだ。だから数学の問題でどうしてもわからない場合、同じ問題を3日間考え続けることがあった。
どうしてもわからないときは、その問題を無料で質問できるアプリを使って匿名で「この問題はどうやって解けばいいでしょうか」と聞いた。すると、1日後には、どのように正解を導き出すのかを誰かが教えてくれる。
質問者が自分だとバレないからいいのだ。
「仲のよかった友達とクラスが離れてしまい」学校では孤立気味に
受験勉強は孤独な作業だ。理子さんの場合、コロナ禍の高校3年生のときは孤独感にさいなまれたという。
「通っていた高校は、推薦で大学に行く子も多くて、高3の秋には受験勉強から解放される人も少なくありません。高3のクラス替えで、それまで仲のよかった友達とクラスが離れてしまいました。でも『東大へ』の目標を掲げた私は、友達のいないクラスの中で、開き直って休み時間も勉強していました。すると、なんでそんなに必死なの? といった目で見られることもあり、温度差が広がっていきました。体育の時間など2人組になってくださいと言われるときはつらかったですね」
自分が学校内ではかなり珍しい東大志望者であることも、いつしか周囲の知るところとなった。教師からの「頑張れよ」のかけ声さえもプレッシャーに感じる日が続いた。高校3年生の秋以降は、学校に行きたくない気持ちから、受験勉強に集中するためと言って、家で勉強することもあった。裕子さんに心配をかけるのが嫌で、学校で友人関係がうまくいっていないことは伝えられなかったそうだ。
これで、東大志望者の仲間がいれば、ずいぶん気もまぎれただろう。だが、同志は駿台に一緒に通うゆうか、たった1人だけだ。2人で話す時間が唯一のリラックスする時間だった。
「ゆうかと会えるのは、予備校に通う週に1回です。行き帰りの電車の中でいっぱい話をして、“1週間分話す”という感じでした」