騙すのはあまりに簡単だった

いったん経営権を握れば、余分な検査や治療、診療報酬の水増し、生活保護の患者のたらい回し、診療報酬請求権の売り飛ばし、高額医療機器の売りつけやリース、手形や小切手の乱発、資産の切り売り、病院をつぶしてマンションを建設するなど、やりたい放題である。もっと単純なやり方もある。理事長の信頼を得て、印鑑(理事長印、銀行印等)や不動産の権利証を預かり、病院の役員(理事長)の登記を勝手に変えたり、小切手や手形を乱発して街金で割り引いたり、病院の土地建物を売り飛ばしたりする。

だますほうも騙されるほうも「身も蓋もない」単純さで、もっと手の込んだことをやっているものと思って取材をした筆者は、拍子抜けした。逆に言えば、その程度の手口で足りるほど、医者は騙しやすい人種だということだ。

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金勘定ができない医師ほど悲惨な目に

俗に「医者の世間知らず」と言うが、自分の病院の問題点すら把握していない理事長はざらにいる。その反面、最新の治療法や症例などを語らせると饒舌だったりする。要は、理事長になっても、医師は患者を治すのが第一と考え、経営は人任せにしているのだ。

とりわけ、借金をする苦労なしに親から病院を譲り受けた二世、普通にやっていれば儲かった古きよき時代の癖が抜けない年輩の医者、ワンマンで下の者の意見を聞かない医者ほど、そういう傾向が強い。

筆者が取材した医療系コンサルタントは「その手の病院は、コロナ以前から夢物語みたいな話に乗せられて、値段があってないような高額医療機器を値切りもせず、20億、30億の投資をやっていた。経営が苦しくなるのは当たり前」と話す。

また、医療法第46条が、理事長には医師か歯科医師でなければなれないと規定しているので、経営センスや世知のある医師以外の人材を理事長職に就けられないマイナス面がある。

関西で暗躍した乗っ取り3グループ

かつて関西では「新田グループ」「島田グループ」「安田グループ」という3つの病院乗っ取りグループが暗躍していた。一番有名なのは、「新田グループ」で、リーダーの新田修士は今年80歳になるが、詐欺、業務上横領、背任などで何度も逮捕、有罪、服役、出所を繰り返している。

1980年ごろから診療報酬を担保にした貸金業を営み、それを突破口にして数十の病院に食い込み、弁天橋病院(当時、新潟市)や水野病院(同、大阪市)を乗っ取った。穏やかだが能弁で、医療実務、不動産取引、金融などにも詳しく、態度は堂々としていたという。現在、これら3大グループは瓦解し、小規模グループが群雄割拠している模様だ。