「菅のいない菅政権」は成り立つのか
総裁選に出馬して以来、自分の言葉を持たない、独自の政策がないと批判されている。
「安倍政治をそのまま受け継ぐ」というだけではまずいと思ったのだろう、自分のブログに「『自助・共助・公助』で信頼される国づくり」という公約らしきものを掲げた。まるで、高校の社会科に出て来るお決まりの表現のようである。長年政治家をやってきた人間とは思えない幼さだ。
外交に未経験なことを問われ、安倍とトランプとの電話会談にはすべて同席していると答えた。オブザーバーでは、外交を実体験したことにはならないことを、菅は分からないらしい。
冒頭で触れたように、菅のいない菅政権は、羅針盤のない船で荒海に出ていくようなものである。安倍よりさらに軽い神輿になりそうな菅は、派閥のいいなりになるのではないか。
ここでは詳しく書かないが、安倍はそれを意図して、突然、辞任したのではないかと思っている。裏で菅を操り、任期明けの来年9月には「安倍再登板」の声が高まり、3度目の政権復帰を目論んでいる。これが私だけの悪夢であればいいのだが。
菅氏が力を入れる「NHKの国有化」
菅政権の最大の不安は、言論表現の自由が安倍時代よりもさらに狭まると危惧されることである。
安倍政権時代を通じて、日本の報道の自由度は実に22位から66位にまで下がり続けた。その下落に大いに貢献したのが安倍と菅だが、菅の役割のほうが大きかったと思う。官房長官会見で、東京新聞の望月衣塑子記者への質問妨害、NHK「クローズアップ現代」のキャスターだった国谷裕子への嫌がらせで、降板に追い込んだことなど枚挙に暇がない。
第二次安倍政権から取り組んできたのがNHK問題である。
『総理の影』で森は、「菅の悲願は、受信料の義務化を通じた事実上の国営放送化である」と指摘している。
第一次安倍政権時代、菅は、受信料を2割下げろ、できなければ受信料を義務化する、国営放送にするとNHKに迫ったそうだ。
森によると、経営委員会というのは12人の委員で構成され、NHK会長を人選して任命し、理事の人事にも拒否権を持つ、大きな権限を持ったもので、その経営委員を任命するのが総理大臣だそうだ。
この時は安倍の辞任で果たせなかったが、第二次安倍政権で、菅は再び、NHK支配を強引に実行していく。
第二次政権がスタートして、経営委員に政権寄りの人間を多数押し込み、会長に抜擢されたのが三井物産出身の籾井勝人であった。
「軽量級のトップの後ろでNHKを動かそうとしてきたのが、官邸の菅や財界応援団たちである」(『総理の影』)