なぜ韓国はこれまで国を挙げて原発推進してきたのか

これまで国を挙げて原発を強力に推進してきた背景はそう単純ではないのである。

李明博大統領もその一角であった。2011年、福島原発事故の翌日の3月12日にはさっそくアラブ首長国連邦に飛び、韓国電力公社が主導する韓国企業が受注した原発の起工式に参加、安全性を強調していた。政権は当時「原子炉の輸出が同国経済にとって強力な成長のエンジンになる」(李大統領)と位置づけ、2030年までに世界で200基の新規原子炉建設が予想されるうち、80基の輸出を目指しており、輸出額は4000億ドルを見越していた。

そして同政権下では、政府機関の韓国原子力文化財団が毎年、小中高の教科書に記載された核開発に関連する内容について年に200~300件もの修正を出版社に要求していたことが報じられた。また子供向け原発教育漫画には「地震が来たら原発の下に隠れるのが安全だ」といった、日本の現況からは到底考えられない描写も存在した。

当時、原発事業を管轄する韓国電力公社傘下企業の韓国水力原子力発電(以下、韓水原)が作成した「福島原発事故関連Q&A」という80ページに及ぶ冊子では、福島原発事故の原因や炉の構造などを韓国原発と対比し、安全性をアピールしている。

「韓国原発は40年間無事故である」

韓水原が「絶対安全」を主張する根拠として、原子炉のタイプが福島はBWR(沸騰水型)であることに対し、韓国はほぼすべてがPWR(加圧水型)であることを挙げている。また韓国原発がIAEA(国際原子力機関)の国際安全基準に沿っている点も安全性を謳う材料となっている。

この韓水原の強気な姿勢は広く知られ、国際原子力事象評価尺度(INES)の基準による「軽微な故障」は過去10年間に110件あるものの、原発稼働以来無事故を標榜。文大統領も2018年にチェコ首相との会談で「韓国原発は40年間無事故である」と強調している。

だが、原発の場合はいかなる些少な故障でも大事故の発端になりうる。また、韓国環境運動連合の資料では人的・環境的被害が存在する明らかな“事故“も報告されている(以下、例)。

・月城原発3号機で冷却水漏出により作業員22人が被曝(1999年)
・霊光原発5号機で配管から放射性物質漏出(2003年)
・古里原発4号機で格納機建造物にて火災、作業員3人負傷(2006年)