多重利用ができる「知識のダム」の効能
ここで、店舗担当の集める店頭情報を、ダムのように蓄える情報基地は役に立ちそうだ。店舗担当が店頭で得た情報をその情報基地に届ける。病院のカルテのようにフォーマット化された情報はもちろん、売り場担当者とちょっと交わした話や、店頭でたまたま消費者と話した内容についても、メールや電話を通じて伝える。何千とある店頭から毎日、定量/定性情報が集まる。
蓄えられた情報は整理され、知識になって多方面で使われる。営業所の中で次週の営業計画に使われる。本部担当は関係店を抽出して、本部商談がどれくらい店頭まで浸透しているかを見る。それを半年前や1年前の新商品のケースと比較する。新商品を導入したブランド・マネジャーは、その新商品が導入以来、店頭で実際にどのように扱われているかを知る。従来との傾向の違いも知る。開発マネジャーは、店舗の売り場担当や消費者の、各地から集められた情報を整理して、次の商品改良にもつなげる。
納得工房のそれと同じ機能、情報を知識に変え、ためておくことのメリットは小さくないが、問題点も残る。店舗担当と本部担当は、物理的に近いところで仕事をしている。同じ営業所や支店にいる場合がほとんどだ。店舗担当の情報を営業所ごとに集めて次週の営業計画を組んだとしても、ことさら問題はない。むしろ、本部担当と店舗担当とが顔を合わせて話し合えば理解も深まる。それにもかかわらず、わざわざ独立した情報基地を置く意味はあるのか? さらに、組織に余分な機能を付加することで、コストが嵩(かさ)み、組織が硬直化するリスクも生じてくる。
しかし、基地にはもう1つの効能がある。それは、店舗担当と本部担当の間の錯綜する情報のやりとりを整理する機能だ。というのは、本部担当は顧客に向けての縦割り組織で、店舗担当は地域割り組織になっている。いわゆるマトリクス組織。そのため、本部と店舗の担当者間の情報交換もスムーズには進まない。基地にいったん情報を格納する効能はこの点にある。
最初の知識多重利用の効能だけだと、メリット・デメリットが錯綜する。もっと客観的な比較評価が必要だということで、後回しになりかねない。だが、顧客関係のプロセス・マネジメントの完成度を高めたメーカーは、いわば必然の流れとして、さらにいっそう顧客への適応のスピードと正確さを求める。たとえば、営業におけるマトリクス組織をつくったメーカーなら、迷うことなく情報基地を設置するだろう。
いったん始まった顧客関係プロセスづくりは、完成を目指して進む。普通の企業に比べて、いち早く顧客関係プロセスづくりに踏み出した企業の能力は、時間とともに増大する。普通の企業が途中から真似てやっても、木に竹を接いだようになるか、コスト高になってしまう。「時間とともに能力の違いが拡大する」、こんなメカニズムがありそうだ。企業の競争優位の第4の経済として、改革が改革を呼ぶ、「プロセス改革の経済」を候補に入れておきたい。