川崎製鉄とNKKの統合により誕生したJFEグループのトップとして、鉄鋼業界の国際的な再編のなかで経営を指揮、その後NHK経営委員会委員長や東京電力会長を歴任したプロ経営者でもある數土文夫さん。製鉄所のエンジニアとして技術畑を歩み、やがては経営の道へと進むなかで、歴史や中国古典を座右の書に「人間学」を学び、財界きっての教養人としても知られる。そんな數土流マネジメントの流儀の一部と、リーダーのための組織運営の知恵をご紹介しよう。(第2回/全2回)
写真提供=JFEホールディングス
51歳のとき水島製鉄所(倉敷市)の企画部長となり、経営の道を歩むことを意識しはじめた。写真は、水島製鉄所(現:西日本製鉄所倉敷地区)。

これからは経営の道を歩むかもしれない

岡山県倉敷市にある水島製鉄所(現JFEスチール西日本製鉄所)の企画部長になったのは1992年4月のことで、私は51歳でした。

企画部長というのは部長の中でも経営にいちばん近い要のポジションです。私は入社以来ずっと技術畑を歩んできたわけですが、その職に就いたことで、技術畑から離れ、これから、もしかしたら経営の道を歩むことになるかもしれない、という意識が少し芽生えたのです。

当時の川崎製鉄の定年は60歳でした。しかし、私は定年後も65歳や70歳まで働くつもりでいました。

日本の製鉄技術は世界最先端ですから、発展途上国に行けば、鉄関係のエンジニアは年齢に関係なく、雇ってくれる場合が多い。とはいっても、少しでも意に沿った仕事に就くためには、私の能力を証明してくれる客観的材料が必要です。

そのために、若手のときからずっと技術論文を書き、特許も取得してきていました。当時、国内、海外含めて論文は25編ほど、特許は3、4名のチームで書いたものが100件を超えていました。

技術畑の人間として日々の仕事に向き合いつつも、60歳で定年を迎えたあと、海外でエンジニアとして雇ってもらえるための準備もしていたのです。

人の上に立つための勉強とは

しかし、論文や特許はエンジニアとしては大きな財産ですが、経営者になるとしたら、大して役立ちません。人の上に立つためには、別の勉強が必要です。そこで、これまで学んだこともない新しい五つの分野の勉強をすることにしました。具体的には、人事、営業、財務、会計ならびに原価計算、システムです。

私にとって一番の勉強法は本を読むことです。さっそく大きな本屋に出かけ、200ページ足らずの概説書を各分野で3冊、合計15冊、購入しました。

このようなとき、心がけていることが、ふたつあります。

ひとつめは、難しい本ではなく、手軽に読める本を選ぶことです。勉強するぞと張り切って、何とか原論といった分厚い本を買ってきても、往々にして途中で挫折してしまうものです。そうではなく、意外と思われるかもしれませんが、最初は全体を簡単に解説した概説書を選ぶようにします。

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