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自分の専門外の分野に秀で、人の上に立つことができる人物が、どこにいるかを、常に探し、把握しておくことを心がけてきた。これも中国古典から学んだ知恵のひとつだ。

ふたつめは、一冊の本を最低でも三度読むということです。最初は流して目を通し、二度目はよくみ締めながら読む。三度目になるとさすがに内容が頭に刻み込まれてきます。200ページ足らずの本なら、2カ月で一分野、つまり3冊を三回読むことができます。

実際、10カ月ほどで、全五分野すべてを読み終えることができました。もちろん、ごく基本的な範囲の内容です。

私にとって、このときの勉強は、のちに経営者となってからだけではなく、国内外のさまざまな分野のビジネスパーソンと仕事の話をするときにも、大いに役に立ちました。

中国の春秋戦国時代における思考

同時に、私はいまより、ひとつかふたつ高いポジションに就いたとき、どのようにするかを常に考え、行動することを心がけるようにしました。

その際、もうひとつ気にかけたのは、横のポジションです。すなわち、水島製鉄所の企画部長だったときであれば、同じ川崎製鉄でも千葉製鉄所の企画部長なら何を考えどういう手を打つだろうか、新日鉄大分製鉄所の企画部長だったらどうだろうか、と。

では、私がトップ・オブ・トップ、すなわち、川崎製鉄の社長になったときはどうしたか。そのときには、今度は社外に思考を移すことを意識しました。同じ業界でも新日鐵の社長は何を考えているのだろうか、世界最大の鉄鋼メーカーであるアルセロール・ミッタルの代表はどう考えているだろうか。日本の通産省は何を思っているだろうか。そんなことばかり、日々考えていました。

しかし、思えば中国の春秋戦国時代にも、同じような「戦い」や「思考」が行われていたのではないでしょうか。周の王室が次第に衰えてその権威が失墜し、十を超す諸国が領土の併呑、拡張を目指して互いに侵攻し合い、弱肉強食の様相を呈した時代で、まさに現在の企業社会そのものです。

中国の古典を読みあさっていましたから、私も常に「心は春秋戦国時代」です。そして幸いなことに、当時の春秋戦国時代といまの企業社会でいちばん違うのは、戦いとはいっても、命までは狙われないことです。

現在に生きるリーダーで、こうした状況をおもしろく感じない人がいるのでしょうか。いや、いないはずはないと思います。

ピックアップに優る人材育成なし

「頭の中でのチームビルディング」もまた、常に心がけてきたことのひとつです。ようは、私が役員や社長になった場合、誰を直下のスタッフに抜擢ばってきするかを考えておくのです。

特に重要なのは自分の専門外の分野に秀でており、人の上に立つ能力のある人物です。具体的には先の五分野を念頭におき、人事、営業、財務、会計、システム、技術、研究等に長けた人間です。そのためには、社内によく目配りし、社内をあちこち歩き回り、どこにできる奴がいるか、の目鷹の目で探しておきました。

ある日突然、役員に指名されてあたふたするなど、みっともないことでしかありません。100分の1、10分の1の低い確率であっても、自分が上に行く可能性があったら、ともに仕事をしたい、すなわちピックアップの候補を決め、頭の中でチームビルディングをやっておく。