IT革命が定着し、世界各国のエンゲル係数も反転上昇

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Antonio_Diaz)

さて、作図目的に沿って時系列的な動きに着目すると、欧米主要国では、反転の時期は異なるが、日本と同様に下がり続けていたエンゲル係数が、近年反転上昇に転じている(ただし米国は下げ止まったが反転はしておらず、英国は直近で再度低下している)。

日本で情報通信革命が通信費を上昇させた1995~2005年の時期には、生活水準が上昇していなかったにもかかわらず、エンゲルの法則に反してエンゲル係数が低下した。そして世界的に情報通信革命が進展していたこの時期に、米国、英国を含めて、すべての国でエンゲル係数が下がり続けていた状況が認められる。

要するに、日本と同様に情報通信革命が大きく進行した時期にエンゲル係数が下方シフトし、それが落ち着いてからエンゲル係数が上昇するというのが、おおむね先進国共通の動きだと理解できるのだ。

なお、2009年には日本、ドイツ、英国以外の国でエンゲル係数が短期的に跳ね上がっているが、これは、08年の穀物価格急騰の影響と見られる。エンゲル係数の動きは食料品価格の動向によって左右されるのである。その時期に日本のエンゲル係数に大きな変化が見られなかったのは円高傾向が相殺要因として働いていたためだろう。

アベノミクスの負の側面がエンゲル係数を上げさせたわけではない

また、他国と異なる最近の日本の特異な動きからは、2015~16年の円安が日本のエンゲル係数を特段に上昇させている印象が得られる。毎日新聞(2017年2月18日)によれば「総務省が14~16年の上昇要因を分析したところ、上昇幅1.8ポイントのうち、円安進行などを受けた食料品の価格上昇が半分の0.9ポイント分を占めた」という。

エンゲル係数の動きを国際比較して見て分かることは、エンゲル係数のナゾの動きを、家計の苦しさをもたらしたアベノミクスの負の側面の表れだと安直に判断すべきではないということだ。

報道機関や有識者は、それが日本だけの動きなのかをまず確かめてみるべきだったのではないか。エンゲル係数の反転・上昇の動きが主要先進国で共通だとしたら、その理由は、やはり先進国で共通の社会経済の変化に求めなければならない。

統計データの背後にある事情を理解するためには、国際的な視野が不可欠であることを肝に銘じておこう。それが統計探偵の第一歩になる。

(写真=iStock.com)
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